ブリテンと小澤征爾
――ふたりの音楽家が築いたレガシーを京都から未来へ

文:鈴木淳史

 京都会館がリニューアルし、ロームシアター京都としてスタートを切ってから10年の歳月が経った。10周年にあたって掲げられたテーマは「つづきのはじまりはじまり」。引き継いできたものが、新しいものへとそのまま繋がっていく。つまり、このホールは過去と未来が交差する場であり、そこから新しい物語を紡ぐという期待が込められているというわけだ。

 今冬に行われる2つのイベントも、まさにそのテーマに沿ったものといえる。取り上げるのは、ベンジャミン・ブリテンと小澤征爾という2人の偉大な音楽家。彼らの音楽を輝かしい過去として紹介するだけでなく、その遺産を若い世代へと継承していこうというのだ。

没後50年の命日に響く

 今年12月4日に行われるのが、「Project B『ブリテン:春の交響曲』」だ。このコンサートは、「ロームシアター京都10周年×京都市交響楽団70周年共同プロジェクト」なる企画の一つ。今年8月には「Project A『オルフ:カルミナ・ブラーナ』」が行われている。

ベンジャミン・ブリテン

 なんといっても、この日は、没後50年を迎えるブリテンの命日。伝統的な英国音楽の響きに感性の鋭い和声や音色を取り入れ、現代的に昇華させることで、英国の音楽をメインステージまで引き上げた作曲家である。大友直人が指揮する京響が最初に演奏するのは、ブリテン追悼のために書かれたペルト「カントゥス」、過去に根ざしながらも新しい響きが特徴のラヴェルの「クープランの墓」だ。この2曲の演奏には、気鋭のダンサーの東野祥子と康本雅子が加わり、音楽と身体表現が交差する場になる。コンテンポラリー・ダンス企画でも定評のあるロームシアター京都ならではのコラボレーションといえる。

左:東野祥子 右:康本雅子

 そして、後半はブリテンの「春の交響曲」。冬から春へと季節が移り、そこで目覚めていくさまざまな命を描いた、声楽付きの12曲からなる交響曲だ。第2次世界大戦という長い冬が終わり、荒野となった大地から自然が芽吹き、人間も息を吹き返すという作曲家の思いも、そこには含まれていよう。

 ソプラノの小林沙羅、メゾソプラノの金子美香、テノールの笛田博昭と、現在の日本を代表する独唱者が英国詩人による歌詞を歌い、そこに東京混声合唱団と京都市少年合唱団も加わって華々しいハーモニーを奏でる。追悼から再生を描くこの作品は、まさしく「つづきのはじまりはじまり」というテーマとも重なり合う。

上段左より:小林沙羅、大友直人、笛田博昭、金子美香
下段:京都市交響楽団

生き続ける小澤征爾のスピリット

 2024年に亡くなった小澤征爾は、生涯にわたって若手音楽家の育成に大きなエネルギーを注いだ指揮者だった。そのなかでも、小澤国際室内楽アカデミー奥志賀、小澤征爾スイス国際アカデミー、小澤征爾音楽塾を自ら設立して、多くの演奏家を育てた。没後3年を迎える来年2月6日(命日)に東京で、その翌日には京都で、その教え子たちによる演奏会が行われる。「マエストロ小澤のレガシーを未来へとつなぐコンサート」だ。

©Michiharu Okubo

 サイトウ・キネン・フェスティバル松本(現:セイジ・オザワ 松本フェスティバル)の教育プログラムとして始まった「小澤国際室内楽アカデミー奥志賀」は、夏に奥志賀高原で合宿形式で行われている。その奥志賀での活動をヨーロッパへと広げた「小澤征爾スイス国際アカデミー」。そして、オペラとオーケストラの実践を通して育成を深める、アジア諸国の若い音楽家のための「小澤征爾音楽塾」。それぞれの異なる環境で研鑽を積んできた演奏家たちが一堂に会し、一つの音楽を作り上げる。

©Nicolas Lieber

 メンバーは、世界中で活躍する売り出し中の若手ばかり。ヴァイオリンでは、ソリストに加え、京響や札響でコンサートマスターも務める会田莉凡。ベルリン・コンツェルトハウス管の首席コンサートマスターのキム・スーヤン。小澤征爾スイス国際アカデミーをきっかけに結成されたトリオ・アーノルドを率いる岡田修一。ソリストのアレクサンドラ・スム。ヴィオラは、N響次席奏者でウェールズ弦楽四重奏団メンバーでもある横溝耕一、バイエルン放送響の首席を務める湯浅江美子。チェロ奏者では、ソリストとして活躍中のルカ・ジョバンニーニ、京響特別首席の森田啓介、東京フィルのフォアシュピーラーの黒川実咲といったように、総勢19名の俊英たちが集う。そこに、アカデミーの講師でもあったジュリアン・ズルマン(ヴァイオリン)、吉野直子(ハープ)といったベテランも加わる。

上段左より:会田莉凡、キム・スーヤン、岡田修一、アレクサンドラ・スム
中段左より:横溝耕一、湯浅江美子、ルカ・ジョバンニーニ、森田啓介
下段左より:黒川実咲、吉野直子、ジュリアン・ズルマン、山田和樹

 演奏会前半は室内楽。ブラームスの弦楽六重奏曲第2番、チャイコフスキーの弦楽六重奏曲「フィレンツェの思い出」、そしてメンデルスゾーンの弦楽八重奏曲がそれぞれ抜粋で演奏される。後半は、小澤の薫陶を受けた山田和樹を指揮台に迎えての弦楽オーケストラが編成される。取り上げられる曲は、バーバーの弦楽のためのアダージョ、マーラーのアダージェット(交響曲第5番より)、シェーンベルクの「浄夜」。弦楽オーケストラとしての魅力、そして実力も試される恰好のプログラムだ。

 この演奏会に貫かれているのは、小澤征爾のスピリットを受け継ぎ、それをさらに発展させていこうという思い。そんな熱気に満たされた「つづきのはじまりはじまり」をわれわれは耳にすることになるだろう。

©Michiharu Okubo

ロームシアター京都10周年×京都市交響楽団70周年共同プロジェクト
Project B『ブリテン:春の交響曲』

2026.12/4(金)19:00 ロームシアター京都 メインホール
(京都市左京区岡崎最勝寺町13)
 

出演/
指揮:大友直人(京都市交響楽団 桂冠指揮者)  
振付・ダンス出演:東野祥子、康本雅子
独唱:小林沙羅(ソプラノ)、金子美香(メゾソプラノ)、笛田博昭(テノール)
合唱:東京混声合唱団
児童合唱:京都市少年合唱団
管弦楽:京都市交響楽団
曲目/
ペルト:ベンジャミン・ブリテン追悼の「カントゥス」★
ラヴェル:クープランの墓★
ブリテン:春の交響曲 op.44 ◆
★:ダンサー出演 ◆:歌手、合唱団出演

チケット料金(全席指定・税込)/
一般:S席8,000円(会員価格* S席7,200円)、A席7,000円、B席6,000円、C席4,000円
U-30:S席3,200円、A席2,800円、B席2,400円
C席1,600円(残席ある場合当日券販売)18歳以下無料招待(要申込)
※未就学児入場不可。
※U-30チケットをご購入の方は、公演当日、年齢が確認できる証明書のご提示が必要です
※会員:京都コンサートホール・ロームシアター京都Club、京響友の会、サポーター・パートナー会員

《放課後かんげきプログラム
~ProjectB『ブリテン:春の交響曲』》
18歳以下の方を無料でご招待。同伴者の方の割引あり(S席半額)。
詳細はこちら→ https://rohmtheatrekyoto.jp/join/151759/

小澤征爾没後3年 小澤征爾が世界に残した音楽の結晶
―薫陶を受けた演奏家たちが一堂に集結
マエストロ小澤のレガシーを未来へとつなぐコンサート

2027.2/7(日)14:00 ロームシアター京都 メインホール
(京都市左京区岡崎最勝寺町13)
 
出演/
小澤国際室内楽アカデミー奥志賀 卒業生
小澤征爾スイス国際アカデミー 卒業生
小澤征爾音楽塾オーケストラ 卒業生
山田和樹(指揮 *後半のみ)
ジュリアン・ズルマン(ヴァイオリン)
吉野直子(ハープ)
曲目/
ブラームス:弦楽六重奏曲 第2番 ト長調 op.36より 
チャイコフスキー:弦楽六重奏曲「フィレンツェの思い出」op.70より
メンデルスゾーン:弦楽八重奏曲 変ホ長調 op.20より 
バーバー:弦楽のためのアダージョ
マーラー:アダージェット(交響曲 第5番 第4楽章)
シェーンベルク:浄夜

チケット料金(全席指定・税込)/
S席¥8,000(会員価格* S席:¥7,200 )、A席¥6,000、B席 ¥4,000
U29 S席¥4,000 18歳以下無料招待(要申込)
※未就学児入場不可。
※U29チケットをご購入の方は、公演当日、年齢が確認できる証明書のご提示が必要です
*会員:京都コンサートホール・ロームシアター京都Club、京響友の会、サポーター・パートナー会員


《放課後かんげきプログラム
~マエストロ小澤のレガシーを未来へとつなぐコンサート~》
18歳以下の方を無料でご招待。同伴者の方の割引あり(S席半額)。
詳細はこちら→ https://rohmtheatrekyoto.jp/join/155957/

問:ロームシアター京都チケットカウンター075-746-3201
https://rohmtheatrekyoto.jp