
「子どもたちに超一流の音楽を聴かせたい」との願いから、全国各地の小・中学校や特別支援学校でアウトリーチの演奏活動を続けてきたNPO法人「子どもに音楽を」(横浜市)が、2026年7月に創設20周年を迎えた。9月12日にはめぐろパーシモンホール(東京・目黒)で「子どもに音楽を 創立20周年記念コンサート」を開く。徳永扶美子理事長は「音楽と普段縁のない子どもたちに聴いてほしい」と語る。
2006年12月16日に仙台市で小・中学生30人を集め、漆原朝子のヴァイオリンと小森谷裕子のピアノで始まった「子どもに音楽を」演奏会は全国各地を巡り、2026年に500回を超えた。著名な演奏家が多数参加し、「子どもは正直。侮ってはいけません」と手加減のない本格的なプログラムを組んできた。
きっかけはNHK交響楽団首席チェロ奏者で夫の徳永兼一郎氏が亡くなって2年ほど後、あるオーケストラの定期演奏会で「年配の方がとても多かった」ことだ。「若い人が来なければ、次の世代につながりません。クラシック音楽が終わってしまいます」と危機感を持ち、NPO法人を立ち上げた。「20周年記念コンサート」では、活動を担ってきた演奏家たちの一部だが、錚々たる顔ぶれが登場する。

右:沼沢淑音 ©️KOHÁN
まずはじめは、2020年代から出演実績を重ねているエマニュエル・リモルディと沼沢淑音のピアノ・デュオによるラフマニノフの「2台のピアノのための組曲第1番『幻想的絵画』」。「オーケストラを感じさせるような音楽で、音色の変化などいろいろな要素を聴いてほしい」と徳永は話す。続いて郷古廉のヴァイオリン、佐々木亮のヴィオラ、佐藤晴真のチェロ、加藤洋之のピアノによるシューマン「ピアノ四重奏曲 変ホ長調 op.47」。「本当に素晴らしいと思っている演奏家の方々に演奏していただきます」と言う。

川久保賜紀と松田理奈、南紫音、周防亮介のヴァイオリニスト4人によるバツェヴィチ「4本のヴァイオリンのための四重奏曲」と小林幸太郎編曲のオペラアリアメドレーも「子どもに音楽を」ならではだ。「NPO法人の最初の自主公演は加藤知子さん、堀米ゆず子さん、戸田弥生さん、川田知子さんのヴァイオリニスト4人による競演でした。20周年記念の今回は第1回でも取り上げたバツェヴィチ作品と、《トスカ》など胸に迫る名アリアのメドレーを入れました」。

南 紫音 ©Tomoko Hidaki/周防亮介 ©JUNICHIRO MATSUO
そして最後は加藤知子のヴァイオリン、山崎伸子のチェロ、伊藤恵のピアノによるメンデルスゾーンの「ピアノ三重奏曲第1番 ニ短調 op.49」。「3人はほぼ同世代で、立ち上げの頃から協力してくださいました。30年来の音楽的信頼感をぜひ聴いていただきたい」という。

アウトリーチでは「子どもにすり寄る必要はありません。弾きたい曲、伝えたいもの、聴いてほしい音楽を演奏してくださいとお願いしてきました」と徳永は振り返る。「音楽は人間が演奏するものだということを、息遣いも含め身近に感じてもらう」との考えから学校の音楽室をはじめ小さな会場にこだわり、室内楽を中心に活動を続けてきた。
重視するのはヴァイオリンやチェロなど弦楽器が入る室内楽。「歌やピアノや吹奏楽は学校で触れる機会が多い一方、弦楽器の生音を聴く機会は少ない」と考えるからだ。「コンサートに行ったことがない音楽の先生も多いのですが、演奏会の前後では子どもたちだけでなく先生も別人かと思うほど感動で雰囲気が変わります。オーケストラを聴けない地方やクラシックに触れる機会のない地域へ行きたい」と今後の抱負を語った。
取材・文:池上輝彦
(ぶらあぼ2026年9月号より)
子どもに音楽を 創立20周年記念コンサート
2026.9/12(土)15:00 めぐろパーシモンホール
問 めぐろパーシモンホールチケットセンター03-5701-2904
https://www.persimmon.or.jp

池上輝彦 Teruhiko Ikegami
音楽ライター。日本経済新聞社シニアメディアプロデューサー兼日経広告研究所研究員。早稲田大学商学部卒。証券部・産業部記者を経て欧州総局フランクフルト支局長、文化部編集委員、映像報道部シニア・エディターを歴任。音楽報道記事やレビューを執筆。クラシック音楽専門誌での批評、CDライナーノーツ、公演プログラムノートも手掛ける。ヤマハ音楽情報サイト「音遊人」で「クラシック名曲ポップにシン・発見」、日経文化事業情報サイト「art NIKKEI」で「聴きたくなる音楽いい話」を連載中。
日本経済新聞社記者紹介 https://www.nikkei.com/journalists/19122304
ヤマハ音楽情報サイト「音遊人」 https://member.jp.yamaha.com/topics/myujin
