バットシェバ舞踊団『DECADANCE – デカダンス』

©Maxim Warrat
©Maxim Warrat
 観た者の魂を熱く燃え上がらせる。ダンスに詳しいとか初心者だとか、そんなこたぁ関係ない。ダンスという芸術が、本来は人間の本能に深く根ざした、問答無用の衝撃をもたらしてくれるものだということを思い出させてくれる。
 それがイスラエルのオハッド・ナハリン率いるバットシェバ舞踊団のダンスである。いまやイスラエルは「超」がつくほどのダンス大国だが、なかでも筆頭にあげられるのが彼らなのだ。
 前回来日したのは3年前。世界に充ち満ちている悲劇までをも描ききった名作『SADEH21』の上演だった。また昨年のスペイン国立ダンスカンパニー来日公演プログラムに含まれていたナハリン作品『マイナス16』を覚えている人も多いだろう。あの興奮が、またやってくるのだ。
 ナハリンの魅力は強烈で、回を重ねるごとにファンを増やしていく。秘密はナハリンが開発した“GAGA”という身体トレーニング法から生み出される、驚きに満ちたダンスの数々である。頭でっかちのコンセプト馬鹿が横行しがちなコンテンポラリー・ダンスではあるが、彼らは「動きの魅力」を骨の髄まで味わわせてくれる。
 タイトルの『デカダンス(DECADANCE)』は、「退廃的な(DECADENCE)」という意味ではなく、「DECA(ギリシャ語で10)+DANCE(ダンス)」なのである。オハッド・ナハリンのバットシェバ舞踊団芸術監督就任10周年記念に創られたダンス作品(2000年初演)というわけだ。いわばナハリンの過去作品のいいとこ取りを再編集したもので、彼の魅力が凝縮されたお得な演目だ。構成はフレキシブルだが、舞台一杯の半円型に並べられた椅子の上で踊ったり、客と一緒にダンサーが踊るなど、有名なシークエンスは外せないだろう。筆者は2001年に本作の特別公演をテルアビブで観ているが、今回はさらに日本公演用の追加シーンを期待できるかもしれないぞ。
「振り付けとは、大昔の旅のようなものだ」とナハリンは言う。それはまだ行ったことのない場所へ行く手段である。しかも多くの場合、到着してみれば、目的地だと思っていた場所が、じつは通過点に過ぎないことがわかる。終わりはないのだ。今回見られる過去作品群は、初演時には到達点だったかもしれない。しかし、いまとなれば本作全体を、オハッド・ナハリンという偉大なアーティストの魂の遍歴として観ることができるだろう。そして公演自体も神奈川・愛知・北九州と巡っていくので、見逃すな!
文:乗越たかお
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年9月号から) 

10/4(日)16:00 神奈川県民ホール
問:神奈川芸術協会045-453-5080
10/7(水)19:00 愛知県芸術劇場
問:愛知県芸術劇場052-971-5609
10/11(日)14:00 北九州芸術劇場
問:北九州芸術劇場093-562-2655