
ヴァイオリニストの豊嶋泰嗣は2026年、演奏活動40周年を迎えた。7月から年末にかけて日本各地で予定する記念演奏会の柱には、ブラームスを据えている。
豊嶋は1986年、新日本フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターとしてデビューして以来40年、国内のオーケストラでコンマス、ゲストコンマスを歴任してきた。
「やっていない楽団はほとんどないところまできました。一昨年は中国で、小澤征爾さんを偲ぶ音楽塾出身者のオケでもコンマスを務めています。レパートリーに多少の向き不向きはあっても、経験を積み重ねることでどんどん成長できたと思います」
「特に影響を受けた指揮者」を尋ねると小澤征爾、朝比奈隆の名前が即座に返ってきた。2人ともブラームスの交響曲を得意としたが、豊嶋は「ブラームスはある程度、年をとってからでないと自信をもって演奏できないと考えてきました」と打ち明ける。
「聴く側からすればどうしても、人生の深い味わいを求めたくなります。朝比奈先生は僕が生まれる前から長いキャリアを歩み、初めてご一緒した時はもう、かなりの長老でしたが、若い人の力を自然に引き出し、ワーッと盛り上げてくださる手腕は確かでした。僕も還暦を過ぎたので、ブラームスを手がける機が熟してきたと考えたのです」
ブラームス関連の記念演奏会は3公演。皮切りは7月19日、大阪府茨木市の「おにクル ゴウダホール」で松岡究指揮アマービレフィルハーモニー管弦楽団のブラームス特集。「ヴァイオリン協奏曲 ニ長調」のソリストを務める。12月には「ヴァイオリン・ソナタ」全3曲を韓国の大ピアニスト、クンウー・パイクと京都(12日)、東京(14日)、水戸(15日)の3都市で演奏する。同月26日には京都府立府民ホールアルティで楽器をヴィオラに持ち替えて「ヴィオラ・ソナタ」全2曲、「アルト、ヴィオラ、ピアノのための『2つの歌』」、「クラリネット三重奏曲」のヴィオラ編曲版を山下裕賀(アルト)、上野真(ピアノ)、上村昇(チェロ)と演奏する。上野は京都市立芸術大学教授としても豊嶋の同僚にあたり、近年、共演の機会が増えている。
「3曲の『ヴァイオリン・ソナタ』に関して言えば、恩師である江藤俊哉先生が僕の子どもの頃にリリースされた全曲盤LPとの出会いが強烈な原風景です。後々、ヨーロッパの巨匠たちも含め色々な演奏に接しましたが、江藤先生の音の豊かさ、長調の音楽でも幾分の翳りを伴う音色などは今でも僕の基準になっています。パイクさんとの共演は長く待ち望んでいたもの。ダメもとで打診したらオーケーが出た上に、全国3ヵ所でご一緒できるなんて、夢のようです」
あと1つの記念演奏会はコンマス兼指導者として長く関わってきた兵庫芸術文化センター管弦楽団とのJ.S.バッハ「ブランデンブルク協奏曲第5番」、ベルク「室内協奏曲」、ベートーヴェン「ヴァイオリン協奏曲」の少し風変わりな「3大B」プログラム(10/3)。指揮は出口大地、ピアノは上野、フルートはシン・イェジ、チェンバロは桐朋学園大学音楽学部で同期の中野振一郎と共演者も豪華だ。今後は「若い時期に一所懸命に取り組んだクァルテット(弦楽四重奏団)ともう一度、真剣に向き合いたい。音楽は人生そのものですが、それにも限りがありますから」といい、すでに「ポスト40周年」の演奏活動も視野に収めている。
取材・文:池田卓夫
(ぶらあぼ2026年7月号より)
アマービレフィルハーモニー管弦楽団 第24回定期演奏会
豊嶋泰嗣演奏活動40周年オールブラームスプログラム
2026.7/19(日)14:00 大阪/茨木市文化・子育て複合施設 おにクル ゴウダホール
問:アマービレフィルハーモニー管弦楽団事務局072-648-5874
https://amabile-phil.com
秋以降の公演
兵庫芸術文化センター管弦楽団 特別演奏会
豊嶋泰嗣 バッハ! ベルク! ベートーヴェン!
10/3(土)15:00 兵庫県立芸術文化センター 6/21(日)発売
ブラームス ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会 (ピアノ:クンウー・パイク)
12/12(土) 京都府立府民ホール アルティ
12/14(月) 浜離宮朝日ホール 12/15(火) 水戸芸術館
名演奏家たちと紡ぐオールブラームスプログラム
12/26(土) 京都府立府民ホール アルティ
https://www.japanarts.co.jp
※各公演の詳細は上記ウェブサイトまたは主催者ホームページでご確認ください。

池田卓夫 Takuo Ikeda(音楽ジャーナリスト@いけたく本舗®︎)
1988年、日本経済新聞社フランクフルト支局長として、ベルリンの壁崩壊からドイツ統一までを現地より報道。1993年以降は文化部にて音楽担当の編集委員を長く務める。2018年に退職後、フリーランスの音楽ジャーナリストとして活動を開始。『音楽の友』『モーストリー・クラシック』等に記事や批評を執筆する他、演奏会プログラムやCD解説も手掛ける。コンサートやCDのプロデュース、司会・通訳、東京音楽コンクール、大阪国際音楽コンクールなどの審査員も務める。著書に『天国からの演奏家たち』(青林堂)がある。
https://www.iketakuhonpo.com
