辻彩奈が語る阪田知樹とのデュオ・リサイタルツアー2026 理解を深めるふたりが拓く、新たな境地

©Makoto Kamiya

 表情豊かで自然と溢れ出すような音楽が魅力の辻彩奈。2年に一度行う全国ツアーでは、ピアニストの阪田知樹と3つのプログラムを用意した。

 「阪田さんとはこれまでブラームスのヴァイオリン・ソナタを録音するなど、大きなプロジェクトでご一緒しています。彼は作曲家でもありますから、理論的で知識の量がすごいので、演奏しながら音楽の基盤をしっかりつくってくれます。私のほうは、直感的に作品に向き合い、自由に音楽をつくりたいタイプ。阪田さんは、そんな私のやりたいことを整理しながら一緒にまとめ、時には“そこまで行ってはいけませんよ!”と引き止めてくれるので、安心して共演できるのです」

 A、Cプログラムのメインはベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタの数々。辻は以前、ベートーヴェンの名手である伊藤恵とその世界に挑んでいる。

 「ベートーヴェンには堅く難しいイメージがありましたが、恵さんはピアノで“ベートーヴェンの歌ってこんなにすばらしい”と教えてくださいました。今では5番、6番のソナタのチャーミングさにも気づきましたし、『クロイツェル』にも肩肘張らず向かえます。同世代の阪田さんと正面からベートーヴェンに取り組むのは初めてなので、新たな引き出しを開いてくれるのではないかと楽しみです」

 一方のBプログラムは雰囲気が変わり、名手レジス・パスキエのもと学んだ辻の得意レパートリーであるフランスものが中心。

 「サン=サーンスのヴァイオリン・ソナタ1番は二人のやりたい曲リストに入っていた作品です。これまでしっとり歌うタイプの曲で共演することが多かったので、めずらしく二人とも華やかな表現をする曲を披露します。そしてこの機会に、やはり彼と演奏したかったフォーレの1番のソナタを合わせました。もともと私の音の出し方はフランスものに合う感覚があって、特にフォーレを初めて弾いた時はすっと体に馴染みました。

 一方で、最近はドイツものに取り組むなか、ヴァイオリン1本でないかのような表現や骨太な音を求めています。はっきりした発音で“音をしゃべる”ことを意識し、奏法を少しずつ変えました」

 デビューから10年。子どもの頃から舞台に立つことが大好きだったというが、振り返ると「本番が怖くて仕方ない時期もあった」という。

 「ミスへの恐怖が大きくなりすぎたのです。そうして怯えて舞台に立つと、絶対にミスをします。でもある時、自分の中でうまくいかなかったと感じた本番を乗り越えたあと、“怖くなるのがわかっているなら練習の仕方を変えたらいいんだ”と気づき、より真剣に準備に打ち込んでいたら、いつの間にか恐怖を乗り越えていました。今も良い緊張はしますが、もっと大きな音楽に意識を向けられるようになりました」

 多くの舞台を経験し、共演者から「音に向き合うさまざまな姿勢を学んだことで、自分の音に責任を持つことをより意識するようになった」という。ツアーを経てまた進歩する彼女の音楽を見届けよう。

取材・文:高坂はる香

(ぶらあぼ2026年7月号より)

辻 彩奈 & 阪田知樹デュオ・リサイタルツアー2026
2026.9/12(土)〜9/27(日)
大阪、栃木、北海道、愛知、香川、鳥取、京都、神奈川、静岡、埼玉
https://www.kajimotomusic.com
※全国ツアーの詳細は上記ウェブサイトの「辻彩奈」アーティストページよりご確認ください。


高坂はる香 Haruka Kosaka

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体で記事を執筆。また、ポーランド、ロシア、アメリカなどで国際ピアノコンクールの現地取材を行い、ウェブサイトなどで現地レポートを配信している。
現在も定期的にインドを訪れ、西洋クラシック音楽とインドを結びつけたプロジェクトを計画中。
著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/