
神戸市混声合唱団は春の定期演奏会に指揮者、尾高忠明を迎える。同合唱団は1989年に神戸市が設立した、日本では数少ないプロの合唱団。神戸文化ホールを拠点に、純度の高いハーモニーで多くのファンをつかんでいる。尾高との初共演となる今回は、その名も「尾高忠明の合唱」と題し、エルガー、尾高惇忠、武満徹という指揮者ゆかりのプログラムを贈る。
1月の終わり、神戸市混声合唱団の練習場に尾高忠明を訪ねた。練習初日のこの日は、午後いっぱいを使って武満徹「うた」のリハーサルだ。緊張感も漂う中、尾高が発する一つひとつの指示のたびに合唱は深みを増し、温かな色合いを帯びてゆく。練習を終えた尾高に同団の印象を尋ねると「お世辞じゃなく皆さん素晴らしいです」と、手応えを感じさせる答えが返ってきた。
「『うた』は武満さんが若い頃から作曲していた歌曲を12曲の合唱曲に編曲した作品です。彼が芸術的にすごく高いところにいってしまってから、昔のシンプルな作品をより高度にアレンジしたんですね。僕は2023年に東京混声合唱団で指揮しましたが、そこには彼ならではの難しい世界があって、しかもアカペラということで合唱団にとってはとてもハードルの高い作品です。関西でこの作品に神戸市混声合唱団がトライするというのは、画期的なことだと思います」
親交のあった武満の作品を語る時、尾高の言葉には独特の熱がこもる。それはまた兄であり、作曲家、ピアニストであった尾高惇忠についても同様だ。
「兄は東京生まれでその後、僕と一緒に葉山で育ちました。だからこの『春の岬に来て』という作品を振っていると湘南のあそこの海とか岬とか、詩は別の人だとしても、兄が見ていたのではないかという風景が自然に湧いてきてとても懐かしい。少し照れくさいですが、同じDNAが流れているのだなという気がします」
開幕には尾高とは切り離せないエルガーの作品「バイエルンの高地から」より第4曲〈切なる願い〉が置かれた。エルガーが生涯の伴侶、アリス夫人とともに訪れたドイツ旅行の印象を綴った作品だ。「明快でとても美しい作品。初めて聴く方も多いかも知れませんが、きっと楽しんでいただけると思います」と尾高は語る。
リハーサルに感じた温かな色彩感のことを伝えると尾高は、「それは人の声だから。人の声に勝るものはないですよ」と語り、さらに「この音楽を合唱ファンだけのものにしておくのはもったいない。すべての音楽ファンの方に聴いていただきたい」と力を込めた。名匠・尾高忠明と神戸市混声合唱団の出会いが紡ぐ、瑞々しい響きが待ち遠しい。
取材・文:逢坂聖也
(ぶらあぼ2026年3月号より)
神戸市混声合唱団 春の定期演奏会「尾高忠明の合唱」
2026.3/14(土)15:00 神戸文化ホール
問:神戸文化ホールプレイガイド078-351-3349
https://www.kobe-ensou.jp

逢坂聖也 Seiya Osaka
大阪芸術大学卒業後、大手情報誌に勤務。映画を皮切りに音楽、演劇などの記事の執筆、配信を行う。
2010年頃からクラシック音楽を中心とした執筆活動を開始。現在はフリーランスとして「ぶらあぼ」「ぴあ」「音楽の友」などのメディアに執筆するほか、ホールや各種演奏団体の会報誌に寄稿している。
大阪府豊中市在住。


