
右:庄司紗矢香 ©Laura Stevens
東京都交響楽団の演奏会の紹介を独奏者から書き起こすからといって、オーケストラの役割を小さく見積もるわけでは決してないことをまずお断りしておこう。その上で、本演奏会は庄司紗矢香がキーパーソンとなっていることを記したい。庄司は都響とシマノフスキの第1番、デュティユー「夢の樹」、ペンデレツキの第2番など挑戦的な曲目で共演してきた。今回のシューマンのヴァイオリン協奏曲も、作曲者最晩年の作品で没後長く封印されていた作品だ。近年、深い憂愁やバッハからの影響などその美質が再発見され、評価が高まりつつある。庄司はこの協奏曲を昨年カリディス指揮フランクフルト放送交響楽団と共演するなど関心を深めており、強靭な集中力の名演が期待できるが、彼女は今回の演奏にあたって指揮者にリッカルド・ミナーシを熱望したという。
都響との共演は8年ぶりとなるミナーシは、ジェノヴァのカルロ・フェニーチェ劇場の音楽監督を務めるが、日本では録音を通じアンサンブル・レゾナンツの首席客演指揮者としてもよく知られる。古典派や初期ロマン派の作品に、歴史的アプローチを意識しつつ劇的なコントラストと疾走感溢れる演奏を聴かせる。今回はシューマンのほか、1曲目にモーツァルトの「アダージョ」をやはり庄司と共演し、後半はベートーヴェンの「田園」。典雅だが影もあるモーツァルトから深淵を覗くシューマンを経て、「田園」の大いなる解放へ。どんなドラマが展開するか楽しみだ。
文:矢澤孝樹
(ぶらあぼ2025年11月号より)
リッカルド・ミナーシ(指揮) 東京都交響楽団
第1029回 定期演奏会 Cシリーズ
2025.11/29(土)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール
問:都響ガイド0570-056-057
https://www.tmso.or.jp

矢澤孝樹 Takaki Yazawa
1969年山梨県塩山市(現・甲州市)生。慶應義塾大学文学部卒。水戸芸術館音楽部門主任学芸員を経て現在ニューロン製菓(株)及び(株)アンデ代表取締役社長。並行して音楽評論活動を行い、『レコード芸術online』『音楽の友』『モーストリークラシック』『ぶらあぼ』『CDジャーナル』にレギュラー執筆。朝日新聞クラシックCD評選者および執筆者。CD及び演奏会解説多数。著書に『マタイ受難曲』(音楽之友社)。ほか共著多数。


