
今年はどんな「第九」を聴けるのか。毎年恒例の「第九」であるが、それぞれの公演が一期一会の体験であり、名指揮者の登場は一段と公演への期待を高めてくれる。
NHK交響楽団の今年の「第九」に招かれるのはアメリカの名匠、レナード・スラットキン。スラットキンがN響に初登場したのは1984年のこと。以来、くりかえし共演を重ね、40年以上にもわたって信頼関係を築いてきた。これほど長期にわたって客演する指揮者は稀有な存在といってよいだろう。

なにしろスラットキンは、オーケストラを知り尽くしている。音楽一家に生まれ、早くから指揮者としての経験を積んだ。名声を高めたのはセントルイス交響楽団音楽監督時代。楽団の演奏水準を全米屈指と呼ばれるまでに押し上げて、旋風を巻き起こした。以来、ワシントン・ナショナル交響楽団やBBC交響楽団、デトロイト交響楽団、リヨン国立管弦楽団で首席指揮者や音楽監督を務めている。N響を含め、どのオーケストラを率いても、その楽団の持ち味を発揮させつつ、自然な語り口で作品本来の姿を伝えてくれるのがスラットキンの魅力。純度の高い「第九」を期待したい。

声楽陣にも目を見張る。中村恵理のソプラノ、藤村実穂子のメゾソプラノ、福井敬のテノール、甲斐栄次郎のバリトンという独唱陣は豪華というほかない。合唱は日本が誇る新国立劇場合唱団。「歓喜の歌」が鳴り響く瞬間が待ち遠しい。
文:飯尾洋一
NHK交響楽団
ベートーヴェン「第9」演奏会
2025.12/20(土)16:00、12/21(日)14:00、12/23(火)19:00、12/24(水)19:00
NHKホール
レナード・スラットキン(指揮)
中村恵理(ソプラノ)
藤村実穂子(メゾソプラノ)
福井敬(テノール)
甲斐栄次郎(バリトン)
新国立劇場合唱団(合唱)
ベートーヴェン:交響曲 第9番 ニ短調 作品125「合唱つき」
問:N響ガイド0570-02-9502
https://www.nhkso.or.jp

飯尾洋一 Yoichi Iio
音楽ジャーナリスト。著書に『クラシックBOOK この一冊で読んで聴いて10倍楽しめる!』新装版(三笠書房)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『マンガで教養 やさしいクラシック』監修(朝日新聞出版)他。音楽誌やプログラムノートに寄稿するほか、テレビ朝日「題名のない音楽会」音楽アドバイザーなど、放送の分野でも活動する。ブログ発信中 http://www.classicajapan.com/wn/


