現代の巨匠・達人たちによるベートーヴェン集の第4弾。交響曲の編曲は緻密な音色変化の工夫を楽しめるが、オリジナルのトリオ作品の密度はやはり格別で、自ずと生まれる力感、訴求力を実感。この3人には特別な表現をしてやろうといった顕示欲は微塵もなく、表面的には地味ですらある。“滋味につながる”という境地とも違い、あくまで淡々と丁寧にベートーヴェンに臨む。無理せずとも、各自の音、表現、ニュアンスが伝われば十分、という揺るぎない確信。オーラ満点の「カザルス・トリオ」から約1世紀、現代のカリスマ、ヨーヨー・マのトリオは、巨匠像の変化を音で伝える。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2025年10月号より)
【information】
CD『ベートーヴェン・フォー・スリー〜交響曲第1番 他/エマニュエル・アックス&レオニダス・カヴァコス&ヨーヨー・マ』
ベートーヴェン:交響曲第1番(ピアノ三重奏版、シャイ・ウォスネル編)、ピアノ三重奏曲第5番「幽霊」、同第4番「街の歌」
エマニュエル・アックス(ピアノ)
レオニダス・カヴァコス(ヴァイオリン)
ヨーヨー・マ(チェロ)
ソニーミュージック
SICC 30922 ¥2860(税込)

林 昌英 Masahide Hayashi
出版社勤務を経て、音楽誌制作と執筆に携わり、現在はフリーライターとして活動。「ぶらあぼ」等の音楽誌、Webメディア、コンサートプログラム等に記事を寄稿。オーケストラと室内楽(主に弦楽四重奏)を中心に執筆・取材を重ねる。40代で桐朋学園大学カレッジ・ディプロマ・コース音楽学専攻に学び、2020年修了、研究テーマはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲。アマチュア弦楽器奏者として、ショスタコーヴィチの交響曲と弦楽四重奏曲の両全曲演奏を達成。



