「スクリャービン・リサイタル」と題して尾城杏奈が取り組んできたスクリャービンのソナタ全集が、この第3弾により完結した。本作では、作曲家若き日の習作であるソナタ変ホ短調(WoO19)と幻想ソナタ(WoO6)を収め、それらと同時期に書かれたワルツや幻想曲も取り上げた。尾城の節度ある緩急や繊細なタッチは、スクリャービンの初期作品らしい柔らかさ、瑞々しい音楽性を伝える。また比較的演奏機会の少ないソナタ第8番の、細やかなモティーフや複雑に移ろうハーモニーの豊かさを、尾城は絶妙な間合いを持たせながら立体的に奏で、作品に込められた詩的世界を見事に現出させている。
文:飯田有抄
(ぶらあぼ2025年9月号より)
【information】
SACD『〈スクリャービン・リサイタルIII〉ピアノ・ソナタ全集 Vol.3/尾城杏奈』
スクリャービン:ワルツ op.1,WoO7, WoO8、幻想曲、ピアノ・ソナタ WoO19、幻想ソナタ WoO6、ピアノ・ソナタ第8番
尾城杏奈(ピアノ)
オクタヴィア・レコード
OVCT-00211 ¥3850(税込)

飯田有抄 Arisa Iida(クラシック音楽ファシリテーター)
音楽専門誌、書籍、楽譜、CD、コンサートプログラム、ウェブマガジン等に執筆、市民講座講師、音楽イベントの司会等に従事する。著書に「ブルクミュラー25の不思議〜なぜこんなにも愛されるのか」「クラシック音楽への招待 子どものための50のとびら」(音楽之友社)等がある。公益財団法人福田靖子賞基金理事。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Macquarie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。



