髙田三郎の主要な歌曲集を年代順に収めた。最初の収録作「風のうたった歌」の詩人・立原道造は1914年生まれで髙田の一つ年下。この歌曲集は立原の没した数年後に作曲された。詩的なイメージを音が的確に捉え、言葉が旋律という薄い衣を纏い陰影を帯びる。同時代の才能の美しい出会いがここにある。その後も髙田のアンテナは詩人たちの言葉から様々な感情を捉え形にし、最晩年の「残照」(詩・井上靖)ではとうとう散文に付曲する境地に至る。アルトの小川明子がピアノの山田啓明の丁寧なサポートを得て、一曲一曲を愛情をこめて歌い上げた。髙田の筆の後を追いかけるかのごときピュアな歌声が美しい。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2025年7月号より)
【information】
CD『くちなし 髙田三郎 5つの歌曲集/小川明子&山田啓明』
髙田三郎:風のうたった歌、立原道造の詩による四つの歌曲、前奏曲抄、ひとりの対話、残照
小川明子(アルト)
山田啓明(ピアノ)
ナミ・レコード
WWCC-8031 ¥3300(税込)