【CD】ベートーヴェン:ピアノ・トリオ全集(II)/葵トリオ

 弦の2人がオーケストラのトップになり、新たな進化のフェーズに入っている、葵トリオのベートーヴェン全曲録音の第2弾。この3人らしく、力感はあるが力みのない、古典の喜びにあふれる快演ぞろい。彼ら2度目の録音で初心に帰るかのような第1番は、“作品1-1”を与えた作曲者の意気込みと、緻密な創意工夫を瑞々しく伝える。中期の傑作「幽霊」は、冒頭の決然としたユニゾンで勝負あり。両端楽章は明るく颯爽として愉悦感満点。陰鬱なラルゴは過剰な演出はせずとも、場面ごとに奏法と音色を変えるだけで、楽曲の斬新さを端的に伝えてしまうという貫禄の構築。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2025年7月号より)

【information】
CD『ベートーヴェン:ピアノ・トリオ全集(II)/葵トリオ』

ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第5番「幽霊」、同第1番、同「カカドゥ変奏曲」

葵トリオ
【秋元孝介(ピアノ) 小川響子(ヴァイオリン) 伊東裕(チェロ)】

ナミ・レコード
WWCC-8032 ¥3300(税込)


林 昌英 Masahide Hayashi

出版社勤務を経て、音楽誌制作と執筆に携わり、現在はフリーライターとして活動。「ぶらあぼ」等の音楽誌、Webメディア、コンサートプログラム等に記事を寄稿。オーケストラと室内楽(主に弦楽四重奏)を中心に執筆・取材を重ねる。40代で桐朋学園大学カレッジ・ディプロマ・コース音楽学専攻に学び、2020年修了、研究テーマはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲。アマチュア弦楽器奏者として、ショスタコーヴィチの交響曲と弦楽四重奏曲の両全曲演奏を達成。