
来年創立70周年を迎える京都市交響楽団の国内ツアーの一環として、9月に沖澤のどか指揮による東京公演が行われる。そのプログラムがとても興味深い。おそらく多くの方が初めて聴くことになるはずのルイーズ・ファランク(1804〜1875)の交響曲第3番、そしてコンサートマスターのソロで有名なリムスキー=コルサコフの交響組曲「シェエラザード」が並ぶ。その意図を沖澤に尋ねた。
「ルイーズ・ファランクは初期ロマン派の時期にフランスで活躍した女性作曲家です。私は彼女のこの作品を、スイスのバーゼル室内管弦楽団のコンサートを指揮した時に知りました。フランスの女性作曲家というと、印象派時代のタイユフェールなどのイメージを浮かべる方が多いと思いますが、ファランクの交響曲は時に古典派的でもあり、またシューベルト、メンデルスゾーン、シューマンも彷彿とさせるようなドイツ・ロマン派的な構成感を持つ作品で、とても親しみやすい、聴きやすい作品だと感じています。それを今回の公演で多くの方に知っていただきたいと思い、選曲しました」
ファランクのパリ音楽院での作曲の師はアントニーン・レイハ(ライヒャ)であり、名手フンメルにもピアノを師事したという研究もある。埋もれてしまっているマイノリティの作曲家などの作品を紹介していきたいという沖澤の願いも込められた選曲だ。
もう1曲の「シェエラザード」を選んだ理由も沖澤らしい。
「常任指揮者に就任して3シーズン目になるのですが、その間に感じたのは、京響の響きはまるで“音の絵巻物”のようだ、ということです。その特徴を最もよく表現できるのがこのリムスキー=コルサコフの作品だと思います。実は私は和声的な魅力を持つ作品が好きで、『シェエラザード』のようなストーリー性を軸にした作品はこれまであまり取り上げてこなかったのです。ただ、今回の演奏会でコンサートマスターを務めてくださる石田泰尚さんはこの4月から“客演”が取れて、『ソロコンサートマスター』というポジションに変わりました。その石田さんの音の魅力、音楽性もフィーチャーしたかったのです。また会田莉凡さんも同じくソロコンサートマスターとなり、そこにコンサートマスターの泉原隆志さんと3人体制になったのですが、今回のツアーではその3人とも一緒に演奏に参加してくれます」
とても豪華な布陣による「シェエラザード」は、沖澤時代の京都市交響楽団の変貌ぶりをよく伝えてくれる演奏になるだろう。ファンの多い石田のソロも話題を呼びそうだ。
京都コンサートホールでのリハーサル、定期演奏会(2回)を経て、兵庫、東京、さらには福井、長野、そして八戸、青森へと続く、京響としては珍しく長いツアー。各地の聴衆にこのコンビの魅力を伝える貴重な機会となる。「特に地元・青森で演奏会ができることは、個人的にとても嬉しく、待ち遠しいです」と沖澤は語る。本拠地・京都での沖澤出演コンサートは売り切れが続く。東京公演も早めのチェックが必要となりそうだ。
取材・文:片桐卓也
(ぶらあぼ2025年6月号より)
京都市交響楽団 第704回 定期演奏会
2025.9/19(金)19:00、9/20(土)14:30 京都コンサートホール
東京公演
9/23(火・祝)18:00 サントリーホール
問:京都市交響楽団075-222-0347
https://www.kyoto-symphony.jp
他公演
2025.9/21(日) 兵庫県立芸術文化センター(0798-68-0255)
9/24(水) ハーモニーホールふくい(0776-38-8288)
9/25(木) 長野市芸術館(026-219-3191)
9/27(土) SG GROUP ホールはちのへ(八戸市公会堂)(0178-44-7171)
9/28(日) リンクステーションホール青森(017-773-7300)