■ヤボルカイ兄弟リサイタルの見どころ・聴きどころ

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HMVスタッフ・久保が語る 「ヤボルカイ兄弟リサイタルの見どころ・聴きどころ」


■ヤボルカイ兄弟リサイタルの見どころ・聴きどころ

兄シャンドル(1976年生まれ)のヴァイオリンと、弟アダム(1977年生まれ)のチェロによるデュオ、ヤボルカイ兄弟。ハンガリー北西部の町ジェールでロマ・ミュージシャンの家庭に生まれ、ロマ音楽(いわゆるジプシー音楽)を空気のように呼吸して育った彼らは、国内の音楽院にて学んだ後、二人ともウィーン芸術大学でさらなる研鑽を積みました。ロマの地盤の上にクラックの技術という強固な基礎を作り上げ、2009年には二人揃って、ウィーンのグラミー賞とも言われる「ウィーン・アーティスト・オブ・ザ・イヤー」に選出されています。本格的な日本デビューとなる今回の来日公演。予定されている作品について、聴きどころを簡単にご紹介致しましょう。

【コダーイ:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲】
コダーイはバルトークと共に、祖国ハンガリーに伝わる民謡を取材、採譜して記録しました。まだ無名時代に書かれたこの作品はたいへん近代的な響きがするため、ともすると難解な現代曲と思われがち。しかしそこには、コダーイ自身が取材したハンガリー民謡と、その根底に流れる民族色が色濃く反映されています。ヤボルカイ兄弟は、中でも、激しいリズムの裏に潜む深い憂いの情についてたいへん親密さを持って歌い上げており、それは私たち日本人にも、どこか身近に感じるところかと思います。

【バルトーク(ヤボルカイ編):ルーマニア民族舞曲】
ハンガリーの民謡を取材したバルトークですが、一時はハンガリー領でもあったルーマニアなどにも出向きました。そこに伝わる舞曲をもとに、ピアノのためのごく短い組曲風に作り上げたのがこの作品で、親しみやすいリズムとメロディを持ち、セーケイ編曲のヴァイオリンとピアノ版、バルトーク自身の編曲による管弦楽版などでも有名です。ヤボルカイ兄弟の演奏は隣国の民族性に深い理解と共感を寄せたもので、自在に前のめる、あるいは引き延ばされるリズムを効果的に用いながら、兄弟ならではの呼吸でアクセントにしています。


【ヘンデル-ハルヴォルセン(ヤボルカイ編):パッサカリア ト短調】
ヘンデルがチェンバロ独奏のために書いた作品を、ノルウェーの作曲家ハルヴォンセンが、ヴァイオリンとヴィオラの二重奏のために編曲したもの。彼らはさらに、ヴァイオリンとチェロのために手を入れて演奏します。弦楽器の二重奏ではたいへん人気のあるレパートリーで、兄弟も幼いころから演奏しており、今では彼らにとってテーマのような位置づけとなっている大切な作品です。バロック音楽らしい気品が根底にありながらも情感豊かなこの曲を、彼らならではの情熱的なパフォーマンスで聴かせてくれます。


【サラサーテ(ヤボルカイ編):ツィゴイネルワイゼン】
ヴァイオリンと、ピアノあるいはオーケストラのための有名な作品で、タイトルは「ジプシーの歌」という意味。今回は兄弟とピアニストによる演奏で、チェロにも聴きどころが振り分けられているのはもちろん、彼らならではの絡みで本場の民族性が加味され、聴きなれた「ツィゴイネルワイゼン」とは大きく違った顔を見せます。アップテンポな曲想でのスリリングな掛け合いも大きな聴きどころ。

【リムスキー=コルサコフ(ヤボルカイ編):熊蜂の飛行】
元々はオペラ《サルタン皇帝の物語》の中の1曲ですが、単独で演奏されるほか、ヴァイオリンやチェロによる編曲でも人気の作品。2人のデュオによる演奏ですが、CDでは58秒という演奏時間。ギネスブックに登録されたこの作品の演奏最短時間世界記録が1分5秒とのことですので、なんとそれを上回っています。よく聴いていないといつの間にか終わってしまいますので、十分ご注意ください。



ロマの感性をネイティヴに身につけながら、クラシック作品を真剣に聴かせてくれるところが彼らのミソ。多様な文化の融合が楽しめるコンサートとなりそうです。
(文・HMVスタッフ・久保)

【公演】
●日程 9月13日(金)19:00 浜離宮朝日ホール 
●料金 全席指定5,500円
●曲目 
コダーイ:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲
バルトーク(ヤボルカイ編):ルーマニア民族舞曲
ヘンデル-ハルヴォルセン(ヤボルカイ編):パッサカリア ト短調
サラサーテ(ヤボルカイ編):ツィゴイネルワイゼン
リムスキー=コルサコフ(ヤボルカイ編):熊蜂の飛行 ほか

●チケット

【プロフィール】

■シャンドル&アダム・ヤボルカイ
バルトークやコダーイを生み出した弦の国ハンガリー出身でシャンドル(兄、Vn)とアダム(弟、Vc)のデュオ。それぞれ国内外のコンクールをことごとく制覇しているが、オーストリアで開催されたコダーイ・コンクールにおいて、デュオとしても第1位を獲得。ウィーンのグラミー賞として名高い「ウィーン・アーティスト・オブ・ザ・イヤー」に選ばれるなどヨーロッパで最も注目を集めている若手。正統派ロマの血を引きジプシーの音楽も引きこなす。2012年、ウィーン楽友協会大ホールでのブルーノ・ワルター交響楽団との共演でブラームスの二重協奏曲を演奏するなどますます注目を集めている。2002年にはブラームスの二重協奏曲を、2009年にはドヴォルザークのヴァイオリン、チェロの協奏曲をそれぞれ録音。2011年には「野趣と郷愁のハンガリー」をGramolaよりリリースし、史上最速58秒の「熊蜂の飛行」は話題となった。

■シャーンドル・ヤーボルカイ(ヴァイオリン)
Sandor Javorkai, Violin
1976年生まれ。リスト音楽院、ウィーン芸術大学にて学び、アイザック・スターン、ティボール・ヴァルガ、ヴラディミール・スピヴァコフ等に師事。国内外のコンクールで優秀な成績を残し、2009年には弟アダムと共に、ウィーンのグラミー賞として名高い「ウィーン・アーティスト・オブ・ザ・イヤー」に選出。ヨーロッパ中の注目を集め世界各国で公演を行う人気アーティストに登りつめた。

■アダム・ヤーボルカイ(チェロ)
Adam Javorkai, Cello
1977年生まれ。バルトーク音楽院を経てウィーン芸術大学でアンジェリカ・マイやラインハルト・ラツコに師事。ハンガリーの巨匠ミクローシュ・ペレーニやアンナー・ビルスマ、フェレンツ・ラドシュ等の薫陶を受けてきた。09年兄シャーンドルと共に「ウィーン・アーティスト・オブ・ザ・イヤー」に選出される。これまでに世界各地から招聘を受けて演奏活動を行っている。