2025年9月の海外公演情報

Wiener Staatsoper Photo by Dimitry Anikin on Unsplash

『ぶらあぼ』誌面でご好評いただいている海外公演情報を「ぶらあぼONLINE」でもご紹介します。
[以下、ぶらあぼ2025年6月号海外公演情報ページ掲載の情報です]

曽雌裕一 編

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 9月は多くの劇場で新シーズンの開幕となるが、一方、秋の音楽祭も多数ある(本文参照)。これに加えて「ルツェルン音楽祭」や「プロムス」など8月から継続する催しも少なくないため、掲載すべき公演データ数は今年も飽和状態。そのため、公演内容の発表が遅れるなどで未掲載となっていた8月分以前の夏の音楽祭情報は「プロムス」の8月分を除き、本号での後追い掲載ができなくなってしまった。どうか事情をご了解・ご容赦の上、ホームページ等での確認をお願いしたい。

 さて、音楽祭企画の前に、9月に見落とせないトピックをまずピックアップしておこう。

 最初に注目すべきは、ベルリン州立歌劇場でシーズン開幕公演として行われる、ティーレマン指揮のワーグナー「ニーベルングの指環」ツィクルス公演。ティーレマンがこの劇場のシェフに就任しての実質的に初めての看板公演となるため、それはそれは凄まじい人気で、今年2月のチケット発売時には、あまりのオーダー殺到のため、劇場の販売システムが完全にダウン。2時間ほどして発売が再開された後もあっという間にチケットが完売となる始末で、このチケットを手に入れた方は実に幸運。

 次に注目すべきは、指揮者フランソワ=グザヴィエ・ロトの復活。最近はどの世界でもセクハラ、パワハラには非常に厳しい目が向けられるが、ロトもこの問題のためにケルン歌劇場(1年早く契約終了)や古楽団体レ・シエクル(辞任)の指揮活動ができなくなっていた。そのロトが、9月からの新シーズンになって、ベルリン・フィルやSWR響に復帰するのは、ロトの音楽性を信奉する者にとっては大きな朗報だ。

 次には、新シーズンを迎えて注目すべき劇場を2つチェックしよう。1つはハンブルク州立歌劇場。音楽監督がケント・ナガノからオメル・メイール・ヴェルバーに代わるが、それより興味をかき立てられるのはインテンダントが演出家のトビアス・クラッツァーに代わること。クラッツァーは2019年にバイロイト音楽祭で演出した「タンホイザー」で一躍注目された後、最近ではバイエルン州立歌劇場でワーグナーの「リング」の演出を進行中だが、その中でハンブルクの要職に就き、9月は早速、シューマンのオラトリオ「楽園とペリ」を自身の演出付で上演するという意表を突いたデビューをする。そして、もう1つの注目はチューリヒ歌劇場。この劇場、21世紀初頭の頃のような華やかな歌手陣・指揮者陣に比べて、最近はやや注目度に欠ける印象を受けていたが、9月からのシーズンはかなり意欲的なプログラムが出てきた。例えば、9月はダムラウのマルシャリン、マルヴィッツの指揮、リディア・シュタイアーの演出と、強力な女性3人を集めて上演するR.シュトラウス「ばらの騎士」で幕開け。これはちょっと聴きものだ。

 これ以外には、久々新しい演出が出るウィーン国立歌劇場のスメタナ「売られた花嫁」、ソヒエフとアルゲリッチが共演するウィーン・フィル、N響第2000回定期公演で実現しなかったフランツ・シュミットの「7つの封印の書」をルイージが振るウィーン響、ベルリン・フィルではアルブレヒト・マイヤーのソロによるB.A.ツィンマーマンのオーボエ協奏曲(ペトレンコ指揮)、古楽系の注目公演が並ぶ「ブレーメン音楽祭」や「バイロイト・バロック・オペラ・フェスティバル」、ピション指揮のヘンデル「アリオダンテ」(パリ・オペラ座)、ヘンゲルブロックが新音楽監督となるパリ室内管(シャンゼリゼ劇場)、またフルシャが新音楽監督となる英国ロイヤル・オペラのプッチーニ「トスカ」(ネトレプコ出演)などが並ぶ。音楽祭関係を補足すると、ベルリン秋の定番オーケストラ音楽祭とも言うべき「ムジークフェスト・ベルリン」、共にチェコ・フィルの活躍する「ドヴォルザーク・プラハ国際音楽祭」と「ジョルジェ・エネスク国際フェスティバル」、相変わらず豪華な公演の続く「プロムス」や「ルツェルン音楽祭」など、注目公演は多種多彩。

(曽雌裕一・そしひろかず)
(コメントできなかった注目公演も多いので本文の◎印をご参照下さい)