共鳴する東西の響き 〜チェリスト海野幹雄が示す音楽の現在地

©塩澤秀樹

 幅広いレパートリーを組み込んだリサイタルを2008年から展開してきたチェロの海野幹雄。J.S.バッハの無伴奏チェロ組曲はもちろんのこと、ブリテンの無伴奏組曲やオール・ベートーヴェン・プログラムなど、毎年ちがった趣向でチェロの世界の広さを教えてくれる。今年はどんな内容になるのか?

 「2024年からは『西洋と東洋の融合』というテーマを掲げて、プログラミングをしています。第1回目となった昨年は、西洋からはメンデルスゾーンの作品、東洋からは武満徹『オリオン』と土田豊貴氏に委嘱した新作『コレオ(無伴奏チェロのための)』を組み合わせました。2025年はその『Vol.2』となりますが、西洋からはベートーヴェンがモーツァルトの《魔笛》のアリアをチェロ用に編曲した変奏曲、ショパンのチェロ・ソナタなど、東洋からは倉田高の『日本人形の踊り』と黛敏郎の『BUNRAKU』を組み合わせます」

 幅広い知識と経験を持つ彼にしか思い付かないようなユニークなプログラムだ。そこをもう少し掘り下げてもらった。

 「モーツァルトは大好きな作曲家なのですが、彼はチェロ用の作品を書いていないので、ベートーヴェンの力を借りて、ここでモーツァルトの世界も紹介したいと思いました。東洋の作品2曲は実は〈人形〉つながりです。倉田高は僕の師でもある倉田澄子先生のお父様で、作曲もなさっていた方でしたが、この曲はフランスの名手モーリス・マレシャルへ献呈されました。以前からアンコールなどでは取り上げたことがあったのですが、今回はリサイタルの中で演奏したいと思い、黛さんの傑作と組み合わせました」

 さらに興味深いのはショパンの2曲「序奏と華麗なポロネーズ」とチェロ・ソナタ、クララ・シューマンの「3つのロマンス」が西洋の作品として演奏されること。

 「ロマン派の作品には傑作が多く、どれを入れようかと常に迷うのですが、今回はショパンに挑戦します。ピアノはいつも妻(海野春絵)に共演してもらっているので、彼女のピアニストとしての魅力も知っていただける機会にしたいとも考えたからです。大学の頃から彼女の演奏を聴いているのですが、特に他の楽器と合わせた時の繊細な音楽性に魅力を感じていました。それが表現できるのはショパンやクララ・シューマンの作品かなとも思います。いつも悩みながらのプログラミングですが、楽しんでいただけたら幸いです」

 今年もブルーローズにその豊かな世界が広がる。

取材・文:片桐卓也
(ぶらあぼ2025年5月号より)

海野幹雄チェロ・リサイタル 2025 西洋と東洋の融合 Vol.2
2025.6/1(日)14:00 サントリーホール ブルーローズ(小)
問:新演コンサート03-6384-2498
https://www.shin-en.jp