
広上淳一が、アーティスティック・リーダーを務めるオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と3月、実質「故郷」の神奈川県茅ヶ崎市(22日、茅ヶ崎市民文化会館)と「地元」の山梨県甲府市(23日、YCC県民文化ホール)を訪れ、「プロメテウスの創造物」序曲と交響曲第4番&第7番からなるベートーヴェン・プログラムを指揮する。
茅ヶ崎は「転勤族の息子で小学校、中学校をそれぞれ3回転校した自分を市立松浪中学校の先生や生徒の皆さんが“湘南の風”に包んで温かく迎えてくださり、再生を果たせた場所です。吹奏楽部に所属しながら将来の目標を音楽家、指揮者へと定めることができた原点でもあります」といい、1974年から2023年の50年を過ごした。
「素晴らしいホールもあるので『死ぬまでに一度、茅ヶ崎で指揮したい』と願っていましたが、67歳となる今年、ついに実現します。同級生から届く『チケット買ったよ』のメールが何より、うれしいですね」
一方の山梨県は「6年前に北杜市清里に自宅を建てたので、現在の地元に当たります」。OEKは山梨県内で演奏したことはあるが、県庁所在地の甲府市では「初公演」という。
「満天の星をあおぎつつ、人間の素朴さと自然の素晴らしさにあふれた山梨県の皆さんにもOEKの魅力を伝え、可愛がっていただきたいですね。その反響を“おみやげ”に金沢へ戻り、能登半島の復興支援に向き合う日常の糧にもしていきたいと思います」
2公演共通の曲目を「オール・ベートーヴェン」としたのは「OEKでは創立者の岩城宏之さん以来、井上道義さん、マルク・ミンコフスキさん…と歴代シェフが交響曲の全曲演奏会に取り組んできた伝統も踏まえた結果」だという。広上も2022、23年の2年連続、東京文化会館で岩城宏之メモリアル・オーケストラと共演、大晦日1日で全9曲を指揮するなど、ベートーヴェンは早くからレパートリーの中核をなす作曲家だ。
第4番と第7番は「サイズ的にも精神的にも、オーケストラと聴衆双方の負担が少なく、音楽的な対照も描きやすい」とされ、広上以外の指揮者の多くも好む組み合わせ。今回は8型(第1ヴァイオリン8人)の完全な室内オーケストラ編成で、水谷晃がコンサートマスターを務める。
広上は「大編成とは異なる丁寧なアプローチを通じてある意味、ジオラマを見るように細やかな楽しみ方をしていただければ」と語り、「室内オケの名刺代わりに『プロメテウス』の可愛らしい序曲も演奏します」。
取材・文:池田卓夫
(ぶらあぼ2025年3月号より)
オーケストラ・アンサンブル金沢 オール・ベートーヴェン プログラム
2025.3/22(土)14:00 茅ヶ崎市民文化会館
3/23(日)14:00 山梨/YCC県民文化ホール
問:オーケストラ・アンサンブル金沢076-232-0171
https://www.oek.jp