第25回記念 別府アルゲリッチ音楽祭が4月20日に開幕〜東京記者発表開催

ミッシャ・マイスキーが追加出演

 今年で25回目を迎える別府アルゲリッチ音楽祭(総監督:マルタ・アルゲリッチ)の記者発表が2月12日、都内で行われ、ピアニストで音楽祭の総合プロデューサーを務める伊藤京子(アルゲリッチ芸術振興財団 副理事長)や大分県などの関係者が登壇。概要を発表した。

伊藤京子

 音楽祭は4月20日から7月13日まで3ヶ月弱にわたって続き、別府市のしいきアルゲリッチハウスやビーコンプラザ、大分市のiichiko 総合文化センターや平和市民公園能楽堂など、大分県内各地の会場のほか、東京や水戸などでも公演が予定されている。今年のテーマは「アルゲリッチの軌跡〜限りなき地平線へ 過去を学び 現在を生き 未来を描く」。1998年にスタートした音楽祭は、英語の名称 Argerich’s Meeting Point の通り、さまざまな出会いの場を創出し、文化交流にも寄与してきた。社会の共有財産としての芸術のあり方を模索するとともに、未来を作る子どもたちを音楽を通じて育むことをアルゲリッチとともに目指してきたと、伊藤は語る。

「今回のテーマ『限りなき地平線へ』というのは、私たちのアルゲリッチに対する感謝の気持ち。長きにわたって健康を保ちながら続けてくださっていることに感謝をしています。また、私たちは、クラシック音楽が社会に何をしていけばよいのか、そのことをいつも命題として持っています。彼女からのメッセージは『過去を学び 現在を生き 未来を描く』です。今をいかに生きるか?――過去があるから今があり、今があるから未来を作れる。それは誰にでも当てはまることですが、社会の中でみなさんと共感し、自分の生活の中にも何かひとつのヒントにしてもらえたら、という願いが込められています」

 また、25回目の節目に音楽祭のもつ祝祭性を改めてクローズアップし、未来をどのように描くかを考えるにあたり、平和への想いを強くしたという。

「今年は戦後80年に当たります。アルゲリッチは、ソロで『夜のガスパール』のオンディーヌなどラヴェルの作品を演奏しますが、ラヴェルが生きた時代は第1次世界大戦の時代。たとえば『クープランの墓』は戦禍に散った友人への追悼を込めた楽曲です。他にも戦禍に遭った作曲家たちが遺した曲があります。音楽だけでは平和な世界は構築できませんが、クラシック音楽の本質に立ち返り、過去の方々の想いを受けながら、今回の音楽祭を作っていきたいと思っています」

マルタ・アルゲリッチ ©Rikimaru Hotta

 本公演は全10公演。アルゲリッチは、「祝祭の日」と題した25回記念特別公演(5/21 大分)で日本のトップアーティストたちと共演。シューベルト「ます」、サン=サーンス「動物の謝肉祭」と、楽しみな曲目が並ぶ。また、今回しいきアルゲリッチハウス レジデント・アーティスト就任が発表された上野通明(チェロ)らとの室内楽公演(5/23 別府)では、ソロ演奏も披露する予定。東京で行われる室内オーケストラ・コンサート(共演:広上淳一指揮 水戸室内管弦楽団)と室内楽公演は、「ピノキオ支援コンサート」として実施され、収益金の一部は、大分県内外でのコンサート開催のために役立てられる。そのほか、恒例の「大分県出身若手演奏家コンサート」、ピアニストの鈴木愛美や竹田理琴乃といったフレッシュな顔ぶれによるリサイタル、N響メンバーによる室内楽、県内の高校の吹奏楽部がレッスンの成果を発表する育成プログラムなどが予定されている。

 また、関連コンサートが充実しているのも、この音楽祭の魅力のひとつ。恒例となっている茨城・水戸芸術館での水戸室内管弦楽団とアルゲリッチの共演に加え、京都南座でのアルゲリッチらの特別演奏会、活躍著しい若手ピアニスト・阪田知樹による佐伯(大分)と佐世保(長崎)でのリサイタルが予定されている。

 さらに、この日の会見で、音楽祭のアドバイザリー・コミッティーを務めるチェリストのミッシャ・マイスキーが新たに参加する見通しとなったという嬉しいニュースが伊藤から発表された。常連であるマイスキーには当初、出演を打診していたものの、彼が昨年、アジアツアーの後に脊髄の感染症により入院と長いリハビリを余儀なくされたこともあり、参加が危ぶまれる状況だった。しかし、1月中旬にルツェルンでの公演でステージに復帰。詳細は現在調整中だが、「おそらく3公演程度、実現するのではないか」(伊藤)とのこと。

左:宮成智宏(大分県企画振興部芸術文化振興課)
右:加藤勇一郎(日本生命保険相互会社 サステナビリティ経営推進部)

 アルゲリッチは、故郷であるアルゼンチンのブエノス・アイレスに始まり、スイスのルガーノ音楽祭(2016年終了)、そして現在はドイツのハンブルク・アルゲリッチ音楽祭と、演奏活動の中で常にさまざまな形で社会との関わりを持ってきた。その一連の流れの中に別府の音楽祭も存在する。「西洋音楽はヨーロッパから取り入れられたものなので、いつも受ける立場だった。それが100年を経て、私たちの音楽祭が(受け渡す側となり)日本から世界へ広がった。このことを大変誇りに思っています」と伊藤は大分の地から世界に向けて音楽文化を発信していく意義を強調する。4月20日にスタートする音楽祭は、アルゲリッチをはじめとする国内外のアーティストたちの演奏を楽しめる機会であるとともに、四半世紀以上の歴史を刻んできた音楽祭がいまを生きる私たちに投げかけるもの――その意味に想いを馳せるひとときにもなりそうだ。

第25回記念 別府アルゲリッチ音楽祭
2025.4/20(日)〜7/13(日)

【別府】しいきアルゲリッチハウス/ビーコンプラザ/別府市公会堂
【大分】iichiko 総合文化センター/平和市民公園能楽堂
【東京】東京オペラシティ コンサートホール



問:公益財団法人アルゲリッチ芸術振興財団 0977-27-2299
https://argerich-mf.jp