牛田智大(ピアノ)

プレトニョフも認めた若き俊英の挑戦


 現在、モスクワ音楽院ジュニア・カレッジに在籍し、ロシア人のさまざまな教授から指導を受けている牛田智大。その牛田が、ロシアを代表するピアニストであり、チャイコフスキー・コンクールの優勝者でもあるミハイル・プレトニョフの指揮によるロシア・ナショナル管弦楽団と共演。チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を演奏する。
「ロシアの先生たちから指導を受けるようになり、ロシア作品の奥深さが理解できるようになりました。特にこのコンチェルトは小学生のころから弾いていますが、先生たちの教えやマエストロ・プレトニョフのアドバイスに接し、解釈、表現、奏法が大きく変わりました。チャイコフスキーはロシア作品のなかでも特に重要な作曲家ですし、この曲は自分の音楽になるまで長い時間を要しましたが、いまは自分らしさが出せるようになったと感じています」
 第1楽章は100小節を超える長大な序奏部を備え、ピアノが印象的な登場の仕方をする。これはピアニストにとって非常に大切な出だしであり、オーケストラとの対話も濃密だ。
「この部分は本当にさまざまな解釈があると思います。マエストロの前で演奏したとき、“この部分で主張しすぎるな”といわれました。チャイコフスキーは改訂版以前には“メゾフォルテ”と記しているので、ガンガン弾いてはいけないと。第2楽章は美しい旋律が特徴ですが、ここでも余分なことはせずシンプルに弾くだけできれいな音楽になるといわれました」
 プレトニョフの教えでもっとも印象的だったのは第3楽章。この楽章の話になると、彼は旋律をうたってくれたという。
「これは“春を待つ歌”で、やさしく甘くロシア舞曲風の旋律を際立たせる楽章。“技巧を見せびらかすな”といわれました」
 この楽章はチャイコフスキーがウクライナ舞曲から旋律を借用し、ロシア農民の春の喜びを描いている。これには歌詞があり、いまでもウクライナではよくうたわれるという。こうしたロシア人の教えを受け、牛田智大はチャイコフスキーのみならず、ラフマニノフ、プロコフィエフ、スクリャービンなどの作品の奥深いところをじっくり学んでいる。
「ロシア作品では語学の大切さを痛感し、文学やオペラなど幅広い知識も必要になると思っています。マエストロにはチャイコフスキーの他の音楽、交響曲やロマンス(歌曲)を聴きなさいといわれました。ぼくが初めてチャイコフスキーのピアノ協奏曲をレッスンにもっていったとき、チャイコフスキーの交響曲をピアノで弾いてみろといわれ、驚きました。その作曲家の全体像を理解することが大切だという教えですね」
 プレトニョフは「音楽がすべて」という性格で、音楽の話になると没頭型で集中力が半端ではないが、他のことは少しズレた(?)ところがあるという。
「ちびまる子ちゃんのおじいちゃんのような、とてもユニークで愛すべき性格です(笑)。音楽のことになると時間も寝食も忘れ、自分の世界に入り込んでしまう。ご自分の考えをすべて伝えようとし、スクリャービンのピアノ協奏曲がぼくに合うともいってくれました。スクリャービンに関してはソロ作品もとても好きになり、いま勉強中です」
 牛田が、つい先ごろ録音した新譜もロシア作品がメインを成し、ラフマニノフのピアノ・ソナタ第2番、プロコフィエフの「戦争ソナタ」第7番など大作が組まれている。
 12歳でCDデビューした牛田智大もいまや高校1年生。学校が終わると夜まで6時間練習に没頭する生活は以前と変わらず、ロシアの先生たちの教えに触発され、より作品の幅が広がっている。今後はラヴェル、ガーシュウィンなども視野に入ってきた。
「マエストロからはチャイコフスキーのコンチェルトはタネーエフの交響曲の影響があるとか、チャイコフスキーのオペラのフレーズがここに使われているとか色々な面を教えていただき、興味の幅も広がりました」
 偉大なる先達から多くを学び、演奏に投影させる。牛田智大の挑戦と曲の神髄に迫る姿勢は、きっと刺激的な音楽を生むに違いない。
取材・文:伊熊よし子 写真:武藤 章
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年6月号から)

ミハイル・プレトニョフ(指揮) ロシア・ナショナル管弦楽団 牛田智大(ピアノ)
グリンカ:歌劇《ルスランとリュドミラ》序曲 
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 
ラフマニノフ:交響曲第2番
7/7(火)19:00 文京シビックホール 
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040 
http://www.japanarts.co.jp

他公演 
6/28(日)奈良県文化会館(ムジークフェストなら実行委員会0742-27-8478)
7/4(土)シンフォニア岩国(0827-29-1600) 
7/5(日)アルファあなぶきホール(087-823-5023)
7/8(水)上田市交流文化芸術センター(オフィス・マユ026-226-1001)
7/11(土)愛知県芸術劇場コンサートホール(CBCテレビ音楽祭・イベント事業部052-241-8118)