トッパンホールの「ランチタイムコンサート」といえば、弦楽器だけでも日下紗矢子、山根一仁、三浦文彰、宮田大等のスター奏者が若き日に出演した、正真正銘の登竜門。この1月、同公演に「特別企画」としてヴァイオリンの湯本亜美が登場する。彼女は、東京藝大を経てドイツで学び、ゾフィ・シャルロッテ王妃国際コンクール優勝ほか複数の賞を受賞。そして、2017年シュターツカペレ・ドレスデンの団員となり、21年12月から同楽団の第2コンサートマスターを務めている。すなわち世界屈指の名門楽団の要職にある実力者だ。
「弦のトッパン」と称される目利きの同ホールでは、以前から「ランチタイム」出演を願っていたもののタイミングが合わず、2日前の「ニューイヤーコンサート」出演のために帰国する今回、ようやく公演が実現した。
演目も実に興味深い。まずは「F.A.E.ソナタ」。提唱者シューマン、弟子のディートリヒと20歳のブラームスが合作し、名手ヨアヒムに捧げられた作品で、ブラームス作の「スケルツォ」だけが有名になっている。経緯や曲名こそ名高いが、全曲の生演奏は極めて稀。今回は、通しで聴いた時の感触、ドイツ・ロマン派の面々の共通性と各々の個性を肌で感じる貴重な機会となる。もう1曲はブラームスのヴァイオリン・ソナタ第3番。巨匠円熟期の劇的な名作を続けて聴いて、同分野の変遷を実感できる趣向もまた嬉しい。さらにこれは、ライプツィヒ留学経験の長い盟友、兼重稔宏のピアノあってこその選曲。ドイツに長く住んだ二人による本格派のアプローチをとくと堪能したい。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2025年1月号より)
ランチタイムコンサート Vol.131 特別企画 湯本亜美(ヴァイオリン)
Frei Aber Einsam ――ブラームスという人
2025.1/22(水)12:15 トッパンホール
問:トッパンホールチケットセンター03-5840-2222
https://www.toppanhall.com