後期ロマン派の末期に位置する2つの大曲が、かくも「過剰な」音楽だったかと再認識させられる。若きシュトラウスのトランス状態のような高揚、ラフマニノフの底を破るほどの憂愁の深さ。だが2人の奏者は無闇に憑依の沼に堕ちるのではなく、冷静な俯瞰の眼で音楽の流れを見失わず、太く力強い線で輪郭を描いてゆく。その結果として曲の過剰性が「自然に」浮かび上がってくるのだ。間違いなく新しい世代のロマンティシズムがここにある、と言えるだろう。青澤隆明氏のライナーノーツの熱さもむべなるかな。アンコール的に置かれたグリーグがその熱を程よく落ち着かせてくれる。心憎い。
文:矢澤孝樹
(ぶらあぼ2024年12月号より)
【information】
SACD『R.シュトラウス&ラフマニノフ/横坂源&沼沢淑音』
R.シュトラウス:チェロとピアノのためのソナタ/ラフマニノフ:ピアノとチェロのためのソナタ/グリーグ:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第3番より第2楽章(チェロのための編曲版)
横坂源(チェロ)
沼沢淑音(ピアノ)
オクタヴィア・レコード
OVCL-00862 ¥3850(税込)