日本フィル「オペラの旅」が来年4月より始動!広上淳一が語る新シリーズへの意気込み

第1弾はマエストロ思い出のヴェルディ《仮面舞踏会》

 日本フィルハーモニー交響楽団は2025年4月より、フレンド・オブ・JPO(芸術顧問)を務める指揮者・広上淳一と新シリーズ「オペラの旅」をスタートさせる。それに先立ち、10月24日に記者懇談会が開催され、広上に加え、同シリーズの演出を手掛ける高島勲、Vol.1・ヴェルディ《仮面舞踏会》に出演するソプラノ・中村恵理(アメーリア役)、テノール・宮里直樹(リッカルド役)らが登壇、意気込みを語った。

左より:平井俊邦(日本フィルハーモニー交響楽団 理事長)、広上淳一、中村恵理、宮里直樹、高島勲

 《仮面舞踏会》は、1989年にシドニー・オペラハウスで初めて指揮をした、広上にとって思い出のオペラでもあるという。マエストロのコメントは、自身の若かりし頃を思い返すところからスタート。

「1984年、オランダのキリル・コンドラシン国際コンクールで優勝した際、審査委員長のベルナルト・ハイティンク先生から次のような言葉をいただきました。『君もいつか、指揮者としてオーケストラに育てられたことへの感謝を感じる年齢になる時がくる。それを覚えておきたまえ』と。日本フィルとの出会いは、1982年の民音コンクール(現・東京国際指揮者コンクール)本選で、その後、定期デビューを経て正指揮者就任(1991年9月~2000年8月)…と、この楽団との長い歴史が始まりました。およそ36年間にわたって、毎年呼んでいただいている、まさに指揮者・広上淳一を育ててくれたオーケストラです」

広上淳一

 そんな日本フィルに、残りの指揮者人生で何か恩返しができないか。自身のオペラへの情熱や、「教育者として若手音楽家への支援を」という思いが合わさって実現したのが、この「オペラの旅」だという。

「日本フィルは基本的にはオーケストラピットに入ることのない楽団ですが、ひとたびオペラに取り組んだときの息吹の強さには目を見張るものがあります。こうした、皆さんがまだ気づいていない才能を紹介する機会を作りたいと思いました。サントリーホールという素晴らしい響きのホールでのセミ・ステージ上演ですので、普段コンサートを聴きに来てくださっているお客様が気軽な気持ちで、オーケストラと日本を代表する優れた歌手の声の共演を堪能できるようなシリーズにしていきたいです」

 愛知県芸術劇場、彩の国さいたま芸術劇場など、国内外の多くの劇場で演出を手掛ける高島。かつて日生劇場芸術参与も務めており、広上とは同劇場での協働以来の長い付き合いだという。

「セミ・ステージ形式のオペラ公演そのものはいくつか手掛けたことはありますが、サントリーホールでの上演は初めて。音響に優れたコンサートホールですので、音に集中できる環境の中で作曲家が意図したイメージをどこまで伝えられるか、という点を追求していきたいです。衣裳と照明はつける予定で、前者に関しては歴史的な時代設定のあるものとは違った、新たな方向性を探っていきたいと考えています」

高島勲

 《仮面舞踏会》という作品は、豪華絢爛な舞踏会や、その仮面の裏にある人間の性(さが)にフォーカスされることが多いが、高島自身は、「ヴェルディはそのさらに先で追求したかったことがあるのではないか」と感じているという。

「それは、“赦しの世界”。リッカルドが殺されながらもなお犯人たちを“赦す”、物語の最後の場面に向かう人間の運命を、うまくホールの中で描いていくことができればと思います」

 「一個人としても、また音楽的にも悩みをともにできる」と《仮面舞踏会》、そしてアメーリアという役を評した中村。世界各国の歌劇場で活躍を重ねており、「サントリーホールの響き、そして日本のオーケストラについて、海外でともに仕事をする人たちは口を揃えて『素晴らしい』と評する一方で、『国外で日本人の歌手を聴ける機会がなかなかない』という声も耳にします。個人的には、ぜひこの『オペラの旅』では将来的に英語の字幕もつけて、国外からいらした方にもその素晴らしさを発信していただければ、と思っています」と本シリーズへ期待を寄せる。

中村恵理

 昨年の宮崎国際音楽祭でも、広上のタクトのもとリッカルド役を演じた宮里は、「すべてが見せ場と言える程ずっと歌っている役で、とにかく大変だった」と振り返りつつ、本公演について「歌手ファーストの優しいマエストロ、素晴らしいオーケストラ・歌手の皆さんとともに、僕自身も“人事を尽くし”、Vol.2につなげていきたい」とコメント。また、セミ・ステージ形式での上演については、「歌い手としては音量に勝てるか、という心配もあるのですが(笑)、どの楽器がなにを演奏しているかが実際に目に見えるのは大きいです。オケがピットに入っている時に比べ、演奏の一体感は圧倒的に出ると思います」とその魅力を語った。

宮里直樹

 公演に先立ち、広上と高島によるレクチャーも予定されているとのこと(詳細後日発表)。創立70周年を迎える2026年を前に、新たな旅路につく日本フィルから目が離せない。


広上淳一&日本フィル「オペラの旅」Vol.1
ヴェルディ:オペラ《仮面舞踏会》(セミ・ステージ形式)

2025.4/26(土)、4/27(日)各日17:00 サントリーホール

〇スタッフ・キャスト
指揮:広上淳一[フレンド・オブ・JPO(芸術顧問)]
演出:高島勲
アメーリア:中村恵理
リッカルド:宮里直樹
レナート:池内響
ウルリカ:福原寿美枝
オスカル:盛田麻央
シルヴァーノ:高橋宏典
サムエル:田中大揮
トム:杉尾真吾
合唱:東京音楽大学
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団

12/11(水)発売

日本フィルハーモニー交響楽団
https://japanphil.or.jp/opera-no-tabivol1