ノット&東響は当初からピンと張った糸のような緊張感で、作品を明晰に描き出してきたが、今やそこに以心伝心とでもいうべきスムーズさが加わった。それがよく分かる「悲劇的」だ。冒頭からたっぷりとしたテンポで、フレージングの細部にまでノットの意思が浸透している。極限にまで複雑に編み上げられた対位法的な動きはぶつかりあってエネルギーを消費するのではなく、広がりの中でクリアに交差してエネルギーを絡めとりポテンシャルを高めていく。終楽章でハンマーを5回叩いたのは、溜まりに溜まったこの力を最後に放出させるためだったのだろうか。実にスリリングな演奏だ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2024年10月号より)
【information】
SACD『マーラー:交響曲第6番「悲劇的」/ジョナサン・ノット&東響』
マーラー:交響曲第6番「悲劇的」
ジョナサン・ノット(指揮)
東京交響楽団
収録:2023年5月、サントリーホール 他(ライブ)
オクタヴィア・レコード
OVCL-00854(2枚組) ¥5000(税込)