チャレンジ精神に富み、かつ公演成果の水準の高い優れた企画と公演に贈られる佐治敬三賞の第11回(2011年度)の受賞公演として、<林千恵子メゾソプラノ・リサイタル『アペルギス&グロボカール』>と<児玉桃ピアノ・ファンタジーvol.1>が決定した。賞金は各100万円。2組の主な贈賞理由は次の通り。
【林千恵子】パリを本拠として活動する林千恵子氏が、3つの難曲を並べたプログラムによって前衛音楽の最先端に立つ至芸を披露し、聴衆の驚嘆を誘った。超絶的な唱法から繰り出される声音が機械的にならず表現の美しさを保つとともに、熱のこもった感情表現と結びついて訴えかけたことがすばらしい。アペルギス(ギリシャ)、グロボカール(スロヴェニア)という2人の作曲家の独創性が十分に引き出されていたことも成果のひとつ。作曲界に一石を投じる画期的なコンサートであった。
【児玉桃】企画性、演奏の質の高さの両面において、充実した内容を持ったものだった。ショパンとドビュッシーをメインに据えながら、月並みなプログラムとは一線を画し、この2人の作曲家と深く結びついた街、パリを拠点とする児玉のバックグラウンドが自然で個性的に反映されていた。同じくパリと関わりの深い権代敦彦による委嘱新作初演が組み込まれ、古典作品と有機的に結びついていたことも特筆に値する。このような密度の高いリサイタルが、廉価なチケットで幅広い層に親しめるシリーズとして長年続けられ、小手先の策ではなく正攻法で「本物」を届けんとする志も評価された。
サントリー芸術財団(音楽事業部)