コンスタンチン・リフシッツによる、待望のバッハ&「ハンマークラヴィーア」ソナタ

©Alexander Ivanov

 コンスタンチン・リフシッツのピアノを生で聴くのは得難い体験だ。生誕250年を祝すベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会がパンデミックで実現されず、その後2022年のバッハとショスタコーヴィチ以来の来日になるのか。それがこのたび、ベートーヴェンの没年から数えて200年目に、空前の大規模ソナタop.106「ハンマークラヴィーア」を聴ける運びとなった。

 リフシッツはバッハへの長年の傾倒でも鮮やかに示されてきたように、モダンピアノ演奏における対位法の大家である。ベートーヴェン晩年の破格のソナタにおいても、その真価が壮大に聴かれることだろう。

 リフシッツの演奏がたいそうユニークなのは、彼独自の思索と確信に満ちて、ポリフォニーの各声部がそれこそ生命体のように織りなされていくことだ。しかも即興の魅力に溢れ、ときに全体として神秘的な表情を湛える。そこにはたんなる楽器演奏を超えた彼の芸術思索が蠢いている。

 ベートーヴェンのソナタ32曲もそうだし、バッハの諸作で聴かせてきたのも、そうした驚きと発見の瞬間の連続だった。だからこそ、生演奏という言葉のもつ、「生」の意味が独特に高められる。それがリフシッツの演奏の濃密な生理なのである。

 かのベートーヴェンの変ロ長調の大ソナタに先立っては、変ロの長短調をとる大バッハのカプリッチョや、前奏曲とフーガで、関連調をとる末子ヨハン・クリスティアンのアリアと変奏をはさむ綿密なプログラム構成をとる。知性的と言うのはたやすいが、リフシッツが弾くならば、まざまざとした実感が色濃く躍るはずだ。

文:青澤隆明

(ぶらあぼ2026年2月号より)

コンスタンチン・リフシッツ ピアノ・リサイタル
2026.4/17(金)19:00 TOPPANホール
問:パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831 
https://www.pacific-concert.co.jp


青澤隆明 Takaakira Aosawa

書いているのは音楽をめぐること。考えることはいろいろ。東京生まれ、鎌倉に育つ。東京外国語大学英米語学科卒。音楽評論家。主な著書に『現代のピアニスト30—アリアと変奏』(ちくま新書)、ヴァレリー・アファナシエフとの『ピアニストは語る』(講談社現代新書)、『ピアニストを生きる-清水和音の思想』(音楽之友社)。『ショスタコーヴィチを語る』(青土社)で、亀山郁夫氏と対談。そろそろ次の本、仕上げます。ぶらあぼONLINEで「Aからの眺望」連載中。好きな番組はInside Anfield。
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