桑原志織(ピアノ)

節目となるリサイタルは、想いを込めたリストで

 ピアニストの桑原志織は、東京藝術大学1年次に日本音楽コンクール第2位および岩谷賞(聴衆賞)を受賞し、卒業後ただちにベルリン芸術大学大学院に留学。ブゾーニ国際ピアノコンクール、次いでルービンシュタイン国際ピアノマスターコンクールと名だたる国際コンクールで第2位入賞を果たし、世界からも注目を集める存在となった桑原が、活動の拠点を日本に移し、満を持してリサイタルを開催する。

 「引き続きヨーロッパでの演奏活動もあるのですが、ドイツ留学が一区切りとなったので、“節目”の意味も込めてこれまで学んできたものをお届けするリサイタルにしたいと思いました」

 プログラムにはシューベルトにブラームス、そしてリストの作品が並ぶ。これらは彼女が最も得意とする独墺ロマン派の楽曲だ。

 「もちろん、フランスやロシアの作品も大好きなのですが、“いま”の私らしさを届けられるのはドイツ音楽だと思い、この3人の曲を選びました。そして今回、リサイタルに“楽園の希求”というテーマを設定しました。これは、コロナ禍であらゆる演奏会が止まっていた時期がようやく終わったころ、初めてベルリン・フィルのコンサートを聴いたときの感動からきたものです。たくさんの演奏会を聴いてきましたが、あのときほど衝撃的な感動はなかったと思います。ベートーヴェンの『田園』交響曲を聴きながら、確かに“楽園”を感じることができたのです。そして私自身も演奏を通して、お客様に“楽園”を感じていただきたい。そんな想いも込めてプログラムを作りました」

 今回演奏する3人の作曲家のなかで、桑原は特にリストに対して強い思い入れがあるようだ。

 「小学校3年生のときにツィメルマンの演奏でピアノ・ソナタ ロ短調を聴き、『いつか絶対に弾きたい』と思ったことが大きな動機となってピアノを学び続けてきました。そのようなこともあって、リストは大好きで特別な作曲家ですね。選んだ3曲は一見バラバラに見えますが、いずれも文学をモティーフにしており、スケールが大きく、波乱万丈の人生を歩んだリストそのものを見出すことができます。最終的に信仰の道にたどり着いた彼は様々な“愛”を知る人でもありました。そんな彼の作品を通して、今回の“楽園の希求”を締めくくりたいのです」

 ドイツ音楽の神髄を探求し続ける桑原。彼女が紡ぎ出すドイツ・ロマンの世界は多くの人々を“楽園”へと誘うことであろう。
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ2024年9月号より)

桑原志織 ピアノ・リサイタル 
2024.9/20(金)19:00 杉並公会堂
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 
https://www.japanarts.co.jp