マチュー・デュフォー フルート・リサイタル

さらなる頂を目指す世界的ソリストの華麗なる妙技

左:マチュー・デュフォー ©ヤマハ株式会社
右:浦壁信二

 前回の来日は2022年10月だった。前半がエマヌエル・バッハのソナタを軸とするバロック系、後半が19世紀後半から20世紀初頭のフランス系のレパートリーというステージは、超絶技巧派の笛吹きでもあるデュフォーにしてはインパクトが控え目に感じられたものだ。しかし演奏に接して驚嘆。パリに生まれリヨンで学んだ彼が恩師マクサンス・ラリューから譲り受けた、フレンチ・スクールの本道をいくノーブルな美音にはさらなる磨きがかかり、弱音領域の繊細かつ精妙な響きの綾にはただ聴き惚れるのみ。凄いほどの深化だ。

 このとき木管フルートを手にしていたのも彼としては新機軸(オーケストラ時代にも頭部管のみ木製を使ったことはある)。ベルリン・フィル退団から1年近くの時を経て、ソロ活動に専心するに際し、厳しく自己を見直し精進を重ね……。そんな姿すら想像したくなる。新しく手にしたというドイツの製作者の楽器との相性も抜群によかったのだろう。

 今回のプログラムに並ぶのは生誕200年のライネッケ、そしてカルク=エーレルトというドイツ・ロマン派。ヴィドール、フォーレ、エネスクという近代フランス音楽の精髄。20世紀の演目で最高峰に位置するマルタンとプーランク。それがシカゴ響とベルリン・フィルの首席を歴任した当代屈指のフルーティストと、彼が信頼を置くピアニスト浦壁信二の演奏で耳にできると記すだけでは、まだ足りない。ひとつの楽器をここまで極めれば、音楽はここまでの高みに昇るのだ。デュフォーはそれを教えてくれる。
文:木幡一誠
(ぶらあぼ2024年7月号より)

2024.7/16(火)19:00 トッパンホール
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