コンクールで最高位を分かちあった戦友とともに
フォルテピアノやチェンバロなど、ピリオド楽器演奏が「正統性」をめぐる議論の中にあったのは昔の話。今や、モダン楽器、ピリオド楽器それぞれの良さが評価され、受容される「多様性」の時代だ。日本では小倉貴久子、平井千絵、七條恵子はじめ優れたフォルテピアノ奏者が輩出しているが、川口成彦もまた、鋭敏な感性と柔軟な発想で私たちを魅了する。
この7月に川口が企画するのはヴィアチェスラフ・シェレポフとの鍵盤デュオ。ひとつの演奏会の中で、フォルテピアノとモダン・ピアノが曲に応じて弾き分けられる。演奏会は兵庫、広島、東京と3ヵ所で行われるが、核をなす連弾作品はフォルテピアノでのモーツァルトとクレメンティ、モダン・ピアノでのシューベルト「幻想曲」およびロドリーゴの「黄昏」。モーツァルトとクレメンティ、およびロドリーゴは作品が生まれた時代に対応した楽器が用いられるが、シューベルトでは「あえて」モダン楽器を用いる。作品/楽器/演奏の多様な関係性を聴衆に感じてもらおうという仕掛けだ。ロドリーゴ「黄昏」という、聴く機会の少ない作品の演奏にも注目したい。川口はイベリア半島の鍵盤音楽を積極的に取り上げている。
2016年のブルージュ国際古楽コンクールで最高位を分け合った二人のデュオがいかなる化学反応を起こすか。間に挿入される二人のソロ曲もショパンやグリンカなど楽しみなものばかりで、しかも3ヵ所で曲目は微妙に違う。これは3回とも聴くしかない!
文:矢澤孝樹
(ぶらあぼ2024年7月号より)
2024.7/19(金)19:00 兵庫/西神中央ホール
7/21(日)14:00 広島/はつかいち文化ホール ウッドワンさくらぴあ
問:MCSヤング・アーティスツ mticket@mcsya.org
https://mcsya.org
7/29(月)19:00 北とぴあ さくらホール
問:北区文化振興財団03-5390-1221
https://kitabunka.or.jp