【SACD】カンチェリ:タンゴの代わりに、ステュクス、SIO/飯森範親&日本センチュリー響

 飯森範親は現代音楽に独特の嗅覚をもつ。カンチェリの1990年代後半の3曲を収録。ジョージア出身のこの作曲家の響きには独自の感覚がある。彼の「音色の出現の前の沈黙」という言葉はそのキーワードともいえる。「ステュクス」は生者と死者を分ける三途の川のことで、ヴィオラ独奏は渡し守のカロンと重なる。静寂の中に浮かび上がる丸山奏の独奏の歌が美しい。合唱が死者の声を歌っているのに、ブックレットに対訳がないのは残念。それでも死への想いは伝わってくる。「SIO」でも静寂と凶暴なトゥッティが強烈に対比される。「タンゴの代わりに」はピアソラへのやや皮肉なオマージュ。
文:横原千史
(ぶらあぼ2024年3月号より)

【information】
SACD『カンチェリ:タンゴの代わりに、ステュクス、SIO/飯森範親&日本センチュリー響』

カンチェリ:タンゴの代わりに(オーケストラ版)、ステュクス〜ヴィオラ 混声合唱と管弦楽のための、SIO〜弦楽オーケストラ ピアノとパーカッションのための

飯森範親(指揮)
日本センチュリー交響楽団
丸山奏(ヴィオラ)
京都バッハ合唱団
高橋優介(ピアノ)

収録:2017年9月&23年9月、ザ・シンフォニーホール(ライブ)
オクタヴィア・レコード
OVCL-00832 ¥3850(税込)