魅力尽きぬバッハの音楽とともに鍵盤楽器の変遷を顧みる
3年に一度開催される仙台国際音楽コンクール。これまでに8回が実施され、第9回は2025年に行われる。それを前にして今年の3月末にふたつのコンサートが開催される。「野島 稔メモリアル」と題され、そのひとつは「もっと教えて野平一郎先生 〜鍵盤楽器の歴史と魅力〜」、もうひとつは第8回のヴァイオリン・ピアノ両部門優勝者「中野りな&ルゥォ・ジャチン デュオリサイタル」である。仙台国際音楽コンクールはこうした開催前後の関連企画が豊富で、遠くから出かけてみる価値のある企画が多いことが特筆されるが、第9回を翌年にひかえたこれらの公演も興味深い。ここではピアノ部門の審査委員長である野平一郎に今回のコンサートの魅力について訊いた。
「野島稔先生は仙台国際音楽コンクールの第1回から第7回までピアノ部門審査委員長、2020年からは運営委員長も務められ、22年5月に亡くなられました。その野島先生の活動、功績を偲んで、特別なコンサートが開催されるのはとても意義深いことだと思います。私と野島先生の関係はちょっと不思議な縁と言えるかもしれません。私がフランス留学から帰ってきた頃に一度、野島先生が私の演奏を聴かれたことがあって、それ以降、色々な機会に声をかけていただきました。この仙台国際音楽コンクールの審査委員もそうでした」
野平は第8回から野島の後継としてピアノ部門の審査委員長を務めている。今回のコンサートはどんなものになるのだろうか?
「実は2022年3月にもボランティアプロジェクトとして『コンクールを120%楽しむために…教えて野平せんせい!!』というコンサートを開きました。今回はそれの続編と言えますが、あらゆるピアニストにとって大切な作曲家であるJ.S.バッハの、「ゴルトベルク変奏曲」のアリアなどの作品を取り上げながら、それらをポジティフオルガン、チェンバロ、現代のピアノで弾き分けてみようという試みです。バッハ自身が素晴らしい鍵盤楽器奏者であったことは皆さんご存知だと思いますが、彼が実際に触っていたチェンバロやオルガンの響きと現代の私たちが弾くピアノの響きはかなり違ったものです。しかし、バッハが鍵盤楽器でイメージしていた音楽は、その楽器という限界を超えて、現代にも届いている。その想像力の源はどこにあったのかということも探りながら、鍵盤楽器の発展の歴史もひもといていくようなコンサートにしたいと思っています。バッハのオルガン曲を毎朝中学校に行く前にレコードで聴いていたという私自身の体験もあって、バッハの音楽の魅力は本当に尽きないので、どこまで迫れるか、時間との勝負ですね」
野平のコンサートの翌日には第8回の優勝者のデュオリサイタルが開催されるが、彼らのデュオが聴けるのは今回が初めてのこと。これも歴史的な意義を持つコンサートとして注目しておきたい。
取材・文:片桐卓也
(ぶらあぼ2024年2月号より)
野島 稔メモリアル
もっと教えて野平一郎先生 ~鍵盤楽器の歴史と魅力~
2024.3/30(土)14:00
中野りな & ルゥォ・ジャチン デュオリサイタル
~第8回仙台国際音楽コンクール優勝者による夢の共演~
2024.3/31(日)14:00
日立システムズホール仙台 コンサートホール
問:仙台市市民文化事業団 音楽振興課022-727-1872
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