これまでにない、さらに新たな挑戦へ
日本唯一の劇場専属舞踊団Noismを率いる金森穣。プロフェッショナルな舞踊を標榜し、今年カンパニーは10周年を迎えた。そして次なる一歩として発表する新作は2部構成だが、驚いたことにそのひとつは、彼らが日常的に行っている身体トレーニングを作品化したものだという。タイトルはズバリ『Training Piece』。もちろん手抜きなどではない。
「以前から我々のトレーニングを見たいという声はありましたが、試行錯誤の段階だったこともあり、稽古には集中が必要なので公開は断ってきました。しかし、いまでは独自のメソッドを確立するに至り、これはひとつの成果として公開すべき時期が来たのかなと。劇場専属という安定した環境が可能にしてくれたことですからね。もちろん上演する以上、作品として見ていただけるよう構成します」
若くして世界の一流カンパニーで活躍してきた金森はクラシック・バレエ出身である。しかし今回は逆のアプローチ、すなわち「アジアの身体から発想されたバレエ」を提示しようというのだ。金森にとっては、「ヨーロッパの後追いではなく、アジアの身体表現者としての宣言」といえるかもしれない。
音楽からのインスピレーション
じつは今回「アジア」は全体を貫く大きなテーマだ。『ASU〜不可視への献身』の「ASU」とは「アジア」の語源となった言葉だという(古代メソポタミアの言葉で「東/ASU(アス)」。ちなみに「西/EREB(エレブ)」はヨーロッパの語源と言われている)。
音楽はアルタイ共和国のボロット・バイルシェフの歌を使用する。複数の音階を同時に発声する「カイ」という喉歌や様々な民族楽器を使い、日本でもファンが多い。衣裳はISSEY MIYAKEのデザイナーで、自ら布の開発も手がける宮前義之。
「今回はまず歌ありきで創作を進めています。歌からのインスピレーションを重視し、かつ私の中の西洋由来の要素を極力排しているので、けっこう変な動きが多い(笑)。また、一枚の布をまとうだけで服になる、というコンセプトが素晴らしく、宮前さんにお願いしました」
新たな身体表現へ
金森といえば、ヨーロッパのスタイルを受け継ぐとみられがちだが、以前から絶えずアジアを意識してきた。ただそれは日本や韓国・中国といった話ではなく、そんな国境すらなかった時代にまで遡り、アジアの根源、そこで受け継がれてきた舞踊の根源を考えようとしているのである。
「21世紀の今、もはや従来のような『西洋対東洋』という単純な二項対立は成立しない。いまの日本の若者は、超近代化された環境で生まれ育っているわけだし、一方、いわゆる『西洋文化』の中にもじつに多くのアジア文化が溶け込んでいますからね。2000年前からアジアで歌い継がれてきたボロットの歌に、そういう我々の身体をさらしたとき、琴線に触れるものがあるのか。あるとすればそれはなにか…、ただ勘違いして欲しくないのは、これは決して “アジアを表現するための作品ではない” ということです。現代の身体表現者である我々が、創作過程においてアジアに向き合うことが必要な作品なんです」
副題の『不可視への献身』の意図は、「歴史の中でダンスがシャーマニズムや精神世界など、より大きな存在へ身体を捧げるために行われてきた」ことも含むという。個を通して、または個を越えて、今ここに立っている我々の身体の過去と未来を通観するような作品になるのではないか。刮目して待ちたい。
取材・文:乗越たかお
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年12月号から)
12/19(金)19:00、12/20(土)17:00、12/21(日)15:00 りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館
2015.1/24(土)19:00、1/25(日)17:00 KAAT神奈川芸術劇場
問:りゅーとぴあ025-224-5521
http://www.noism.jp
【お詫びと訂正】
ぶらあぼ 2014年11/18発行 2014年12月号 Catch Up P269に掲載しました
「金森 穣 Noism1『ASU〜不可視への献身』」の記事で、公演日に誤りがありました。
誤:12/25(日)17:00 KAAT神奈川芸術劇場
正:1/25(日)17:00 KAAT神奈川芸術劇場
お詫びして訂正いたします。