伝統息づく愛器とともに、巨匠の創作を辿る旅立ちへ
2016年から22年にかけてモーツァルトのピアノ・ソナタ全曲演奏会を行ったピアニストの久元祐子が、この秋より新たにベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会に乗り出す。2027年のベートーヴェン没後200年の節目を見据えつつ、32曲のピアノ・ソナタを通して、彼がこのジャンルにおいて成し遂げた高みをたどる旅だ。
第1回のプログラムは、主としてウィーン時代初期(1792〜1802)のピアノ・ソナタから構成される。ボンからウィーンに出てきた若い青年が満を持して出版した作品2のソナタ集より第1番(ヘ短調)、さらに作品7、作品10-1を経て、いわゆる彼のウィーン時代初期の集大成である劇的な「悲愴」(ハ短調)へといたる作風の変遷を味わうことができる。
歴史的楽器の演奏に造詣の深いことでも知られる久元だが、今回のシリーズは愛器ベーゼンドルファー 280VC ピラミッド・マホガニーで演奏されるのも注目だ。「ベートーヴェンの時代のフォルテピアノの息づかいや繊細さを残しつつ、現代のコンサートホールでも埋もれないパワーをもつ楽器」と語っており、これまで多くのフォルテピアノを演奏するなかで身に付けてきたタッチや音の透明感、当時のアーティキュレーションや色彩のニュアンスなどを、このあたたかみのあるベーゼンドルファーから存分に引き出してくれるにちがいない。そしてつねに楽器の限界に挑み、新しい表現を切り開いてきたベートーヴェンの世界を鮮やかに浮き彫りにしてくれることだろう。
文:後藤菜穂子
(ぶらあぼ2023年11月号より)
2023.11/7(火)19:00 サントリーホール ブルーローズ(小)
問:プロアルテムジケ03-3943-6677
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