時空を超えて呼応し合う響き
昨年結成25周年を迎えたアンサンブル・ノマドは現代音楽を取り上げることの多い団体だが、遊牧や漂流を意味する「NOMAD」と銘を打っているように実際の選曲は非常に多種多様だ。
今年度の定期演奏会は「プシュケー・息」をテーマに掲げ、第2回となる9月公演はソプラノとテオルボのデュオ・Vox Poeticaをゲストに迎える。3年前にはベテランの波多野睦美と似た企画を行っているが、今度は古楽のスペシャリストとして世界の檜舞台で活躍する実力を持つ若手ソプラノ・佐藤裕希恵との共演だけに、新たな化学反応が起きそうだ。
曲目はダウランド、オケゲム(バートウィッスル編曲!?)、ヘンデル、モンテヴェルディといった古楽の声楽曲に加え、ルネサンスを意識したロドリーゴの歌曲も。タイトルもしくは楽器編成で何かしら古楽を志向している松本真結子、星谷丈生、田中翔一朗の世界初演・改訂版初演も楽しみだが、もうひとつの目玉となりそうなのが人気作曲家・藤倉大の「Yuri(ゆり)」だ。今回は弦楽四重奏が加わったアンサンブル版だが、もともとこの曲は(一般的な箏よりも弦の数が多い)二十五絃箏の独奏曲で、木村麻耶のために作曲されたもの。モダンな反復フレーズから始まる文句なしに格好良い曲なのだが、作曲途中で木村が希望したことから箏奏者が歌い出す作品に仕上がっている(だから「プシュケー・息」というテーマに合致!)。和と洋、異なる息づかいの聴き比べは刺激的な一夜となるに違いない。
文:小室敬幸
(ぶらあぼ2023年9月号より)
2023.9/11(月)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール
問:キーノート0422-44-1165
https://www.ensemble-nomad.com