ダブルリードアンサンブルの妙技 〜東京・名古屋 夢の共演〜

名手17名が傑作の演奏を通して紡ぐダブルリード・ワールド

文:柴田克彦

 17本のダブルリード楽器によるアンサンブル! これは一体どんな響きになるのか、極めて興味深い。そんな「ダブルリードアンサンブルの妙技」と題したコンサートが開催される。
 ダブルリード楽器とは、振動させて音を出す木片を2枚使った木管楽器のこと。大きくオーボエ属とファゴット(バスーン)属に分けられ、前者にはオーボエ、オーボエダモーレ、イングリッシュホルン、バスオーボエ、後者にはファゴット、コントラファゴットなどがある。
 本公演は、こうした楽器のみで名曲中心のプログラムを聴かせる稀少なコンサート。演奏するのは、名古屋ダブルリードアンサンブル9名と東京ダブルリード本舗8名の計17名、すなわち名古屋と東京のアンサンブルによる夢の共演でもある。

 名古屋ダブルリードアンサンブルは2002年の結成。元名古屋フィル首席オーボエ奏者の山本直人が主宰し、中部地方で活躍するプレイヤーで構成されている。多彩な楽器編成が生み出す豊かな響きを旨に意欲的な活動を展開。レパートリーは250曲を超え、CDも4枚リリースしている。メンバーは、山本、小木曽栄里子、羽佐田優子(以上オーボエ)、石田正(オーボエダモーレ、イングリッシュホルン)、小室真美、須田聡子(以上イングリッシュホルン)、野村和代、桑原真知子(以上ファゴット)、冨士川健(コントラファゴット)の9名。

名古屋ダブルリードアンサンブル

 東京ダブルリード本舗は2020年の結成。多方面で活躍するオーボエ奏者の長山航が代表を務め、在京楽団の奏者など、大学や門下の枠を越えた個性豊かなプレイヤーで構成されている。彼らの思い入れがある曲中心のプログラムでコンサートを展開。吹奏楽の有名曲のCDもリリースしている。メンバーは、荒川文吉、小山祐生(以上オーボエ)、長山(オーボエダモーレ、バスオーボエ)、戸田智子、久保一麻(以上イングリッシュホルン)、廣幡敦子、長田和樹、小武内茜(以上ファゴット)、大内秀介(コントラファゴット)の9名で、今回は廣幡以外の8名が出演する。

東京ダブルリード本舗

 プログラムには、福田洋介への委嘱作品(世界初演)、ワーグナー(長山航編曲)の歌劇《ローエングリン》より「エルザの大聖堂への行列」 、モーツァルト(山本直人編曲)の「アヴェ・ヴェルム・コルプス」、A.リード(山本編)の「アルメニアン・ダンス パートI」、レスピーギ(長山編)の交響詩「ローマの松」など、お馴染みの名作がズラリと並んでいる。
 このほか、最初にガブリエリの「第7旋法による8声のカンツォン 第2番」を演奏。編曲者の山本によると「ご挨拶代わりに演奏する曲目として、2つの団体を、低音を中央に置いた対向配置にし、各団体の紹介と対話をお楽しみいただきます」とのことなので、冒頭から楽しみだ。また山本は、「『アヴェ・ヴェルム・コルプス』は、オーボエダモーレ 、イングリッシュホルン、バスオーボエのみによる編成で、中音域特有の柔らかい響きをお楽しみいただきます。『アルメニアン・ダンス パートⅠ』は、吹奏楽を代表する楽曲の1つで、これまでにそれぞれの団体でも独自のアレンジで演奏してきましたが、今回のために新たな編曲を施しました。17人編成による大きなスケールと豊かな響きをお楽しみください」と語っているだけに期待が膨らむ。
 また、コンクールの課題曲をはじめ吹奏楽の世界で名の知れた福田洋介への委嘱新作も注目されるし、「エルザの大聖堂への行列」「ローマの松」といった吹奏楽編曲で人気のクラシック作品がいかに変貌するか?も興味津々。これらは一般のクラシックファンも見逃せない。

 名古屋ダブルリードアンサンブルの山本の「総勢17名のダブルリード奏者が織りなす迫力の響きを、東京・名古屋それぞれが誇る素晴らしいホールでお楽しみいただけると幸いです。ぜひ会場へお越しください」、東京ダブルリード本舗の長山の「お互いのアンサンブルの長所を引き出し合った素敵なハーモニーをお聴きいただけるのが楽しみです。上はピッコロ・オーボエ、下はコントラファゴットまで種々のダブルリード楽器を駆使し、吹奏楽・管弦楽の響きはもちろん、合唱やピアノの響きまでも再現していくダブルリードアンサンブルの可能性を感じていただきたいです」とのメッセージからも、公演への期待は大きい。
 艶やかなオーボエ、甘美に歌うオーボエダモーレ、深みのあるイングリッシュホルン、質朴かつコミカルなファゴット、重低音が体を震わすコントラファゴット等々、個々の楽器の持ち味はもとより、これらが絡み合う音の綾、17本の重層的かつユニークな響きなど、普段まず体験できない楽しみが横溢した本公演。会場も、東京の紀尾井ホール、名古屋の三井住友海上しらかわホールと音響の良い中型ホールゆえに、最高の環境で満喫できる。この機会にぜひ清新なサウンドと音楽に浸りたい。

【Information】
ダブルリードアンサンブルの妙技 〜東京・名古屋 夢の共演〜
2023.8/28(月)19:00 紀尾井ホール
9/12(火)18:45 名古屋/三井住友海上しらかわホール

〈出演〉
名古屋ダブルリードアンサンブル
東京ダブルリード本舗

〈演奏曲目〉
ガブリエリ(山本直人編曲):第7旋法による8声のカンツォン 第2番
ワーグナー(長山航編曲):歌劇《ローエングリン》より「エルザの大聖堂への行列」
ロッシーニ(ゲヴァウアー他編曲):オペラ《セビリアの理髪師》より〈私は町の何でも屋〉(Fg四重奏)
モーツァルト(山本直人編曲):アヴェ・ヴェルム・コルプス
リード(山本直人編曲):アルメニアン・ダンス パートI
福田洋介:生々流転[世界初演]
レスピーギ(長山航編曲):交響詩「ローマの松」

問:パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831(8/28)
http://www.pacific-concert.co.jp
クラシック名古屋052-678-5310(9/12)
https://clanago.com