ピティナ・ピアノコンペティション特級 2023がまもなく開幕

サントリーホールで若い音楽家たちの“未来への第一歩”を見届ける

文:長井進之介

 今年、第47回を迎えた、一般社団法人全日本ピアノ指導者協会(PTNA=略称ピティナ)主催の「ピティナ・ピアノコンペティション」。その最上位にあたる「特級」の一次予選(動画審査)を通過し、103名の中から選ばれた26名が、7月29日、30日の二次予選に出場(J:COM浦安音楽ホール コンサートホール)する。その後は、三次予選が8月1日に同ホールで行われ、そこから7名が8月18日にセミファイナル(第一生命ホール)に進出。さらに、そこで4名に絞り込まれたファイナリストが8月21日にファイナル(サントリーホール 大ホール)へと進む。なお、ファイナルは梅田俊明の指揮による日本フィルハーモニー交響楽団との共演で、ピアノ協奏曲を演奏することになっている。

2022年(第46回)優勝の北村明日人 サントリーホールでのファイナルのステージ
(共演:飯森範親指揮 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団) ©石田宗一郎

 特級は、「最も国際コンクールに近い国内コンクール」を標榜している。課題曲は古典ソナタ、ショパンとそれ以外のエチュード、新曲課題(邦人作品)など、バロックから近現代までと幅広く、国際コンクールにも通用するような広範なレパートリーを準備することが求められるタフなラウンドが続く。実際にこのコンクールで上位入賞を果たしたピアニストは国際コンクールで目覚ましい成果を挙げている。近年の上位入賞者を見ても、阪田知樹(2011年度)は2016年フランツ・リスト国際コンクール=ハンガリーで第1位を獲得し、角野隼斗(2018年度)は2021年ショパン国際ピアノコンクールで三次予選に進出。亀井聖矢(2019年度)は2022年にロン=ティボー国際コンクール優勝という快挙を成し遂げている。いずれの奏者も今ではチケットを取るのが困難なほどの人気ぶりを見せているが、それぞれ演奏のタイプもキャラクターも全く違う。このことからも、多様な音楽性を認め、見出していくコンクールだということがよくわかる。だからこそ、様々な魅力をもったスーパースターが次々と輩出されているのであろう。

 今年度もサントリーホールのファイナル、第一生命ホールでのセミファイナルは、チケットがすでに発売されている。また二次予選以降のラウンドはYouTubeの「ピティナ・ピアノチャンネル」でライブ配信される。このチャンネルでは二次進出者自身によるPR動画など新たな試みでの等身大のコンテスタントの姿を視聴でき、出場者についてさらに詳しく知ることができる。二次予選出場者の一次予選での演奏も視聴することが可能なので、ぜひそれぞれの“推し”を見つけてほしい。

2022年の表彰式より
左より:金子勝子(審査員長)、鶴原壮一郎、神宮寺悠翔
北村明日人、森永冬香、福田成康(ピティナ専務理事) ©石田宗一郎

 一般の来場者や視聴者が深く審査に関わることができるのも大きな特色だ。ファイナル当日の会場来場者投票で決まる「聴衆賞」と、二次予選からファイナルまで全期間を通じて実施されるオンライン投票で決まる「サポーター賞」が設けられている。会場で熱演に触れて投票できるのはもちろんだが、全国からお気に入りの出場者に票を投じることができるのも嬉しいポイントである。

 今年はさらに音楽に情熱を傾けるピアニストたちの「人生を応援する」ために、新しく「クラウドファンディング」もスタートする。前述の「サポーター賞」の賞金、ピアニストたちが入賞後に国内・海外での活動するためのサポート費用を、8月21日まで募っている(目標金額:300万円)。未来の音楽家たちを支えるための試みに賛同することは、音楽文化の活性化に大きくつながっていくことだろう。

 今回、二次に進んだ26名は、国内の音楽大学や大学院、一般大学で学んでいる参加者をはじめ、海外で研鑽を積む者など、幅広い顔ぶれである。すでにフランツ・リスト国際ピアノコンクール(ワイマール)や仙台国際音楽コンクールなどで入賞を果たしている出場者もおり、非常にレベルの高い演奏を次々と楽しむことができるのは間違いない。客席、もしくはオンラインで、若き演奏家たちが未来への第一歩を踏み出すための熱演をぜひ見届けてほしい。

◎二次予選進出者(五十音順)
安達莉子 愛知県立芸術大学大学院1年
生熊茜 京都市立芸術大学大学院修了
稲積陽菜 桐朋学園大学音楽学部2年
小野田有紗 ニューイングランド音楽院
小野寺拓真 札幌開成中等教育学校コズモサイエンス科6年
柏匡之輔 桐朋学園大学大学院1年
加藤亜咲美 桐朋学園大学音楽学部1年
嘉屋翔太 東京音楽大学大学院1年
神原雅治 名古屋音楽大学ピアノ演奏家コース3年
国本奈々 東京音楽大学ピアノ演奏家コース1年
齋藤陽花 東京藝術大学4年
佐藤和泉 桐朋学園大学音楽学部4年
塩﨑基央 東京音楽大学ピアノ演奏家コース3年
島多璃音 東京藝術大学4年
鈴木愛美 東京音楽大学ピアノ演奏家コース4年
髙尾真菜 名古屋音楽大学大学院1年
中村梨乃 京都市立芸術大学4年
西山響貴 東京大学2年
橋本崚平 東京藝術大学大学院1年
平間今日志郎 パーク大学国際音楽センター
藤川天耀 桐朋学園大学音楽学部1年
前川愛実 桐朋学園大学音楽学部1年
三井柚乃 昭和音楽大学ピアノ演奏家コース4年
山田ありあ 東京音楽大学大学院1年
吉原佳奈 昭和音楽大学大学院1年
渡辺康太郎 東京藝術大学2年

 なお、筆者は2019年度(第43回)の特級ファイナルを会場で聴いたことがある。出場者は秋山紗穂に沢田蒼梧、亀井聖矢に黒木雪音。どの奏者も自らの特質を活かした選曲で見事な演奏を披露した。秋山はプロコフィエフのピアノ協奏曲第2番 ト短調で洗練された音色とリズム感の良さを聴かせ、沢田はラフマニノフのピアノ協奏曲第3番 ニ短調でスケールの大きな演奏を展開。亀井はサン=サーンスのピアノ協奏曲第5番 ヘ長調で柔和で美しい音色とその多彩な変化、そして表現の柔軟さで強い存在感を示し、黒木はプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番 ハ長調で華麗なピアニズム、眩い輝きを放つ力強い音色で魅せた。

 この時の結果はグランプリおよび「聴衆賞」は亀井。銀賞に黒木、銅賞には秋山、そして入選は沢田に決定した。このとき亀井は初めてのオーケストラとの共演だったそうだが、まったくそれを感じさせない緻密なアンサンブルと多彩な音づくりを聴かせてくれたことが今でも忘れられない。またその後も亀井や黒木の演奏はたびたび聴く機会があるが、彼らの成長は留まるところを知らない。入賞後、さらに活躍を追っていける奏者が非常に多く輩出されているのは、このコンクールの大きな魅力だ。サントリーホールという大舞台で、今年はどんな4名がオーケストラと熱演を繰り広げてくれるのだろうか。非常に楽しみである。

写真提供:全日本ピアノ指導者協会

【Information】
♪ 2023ピティナ・ピアノコンペティション特級 スケジュール
(各ラウンドの進出人数は変更になる場合があります)

◎二次予選(26名) 25~35分のソロリサイタル
7/29(土)11:00 J:COM浦安音楽ホール コンサートホール(新浦安)
7/30(日)10:30 J:COM浦安音楽ホール コンサートホール(新浦安)
チケット:当日券(全席自由)のみ 一般:1000円 ピティナ会員・学生:800円

◎三次予選(10名) コンチェルト(ピアノ伴奏)
8/1(火)13:30 J:COM浦安音楽ホール コンサートホール(新浦安)
チケット:当日券(全席自由)のみ 一般:1000円 ピティナ会員・学生:800円

◎セミファイナル(7名) 45~55分のソロリサイタル
8/18(金)午前の部10:30/午後の部14:30 第一生命ホール
チケット:一般:2,500円 ピティナ会員・学生:2,000円
チケットぴあ
 イープラス 午前の部午後の部

◎ファイナル(4名) コンチェルト(オーケストラ共演)
8/21(月)16:30 サントリーホール 大ホール
共演:梅田俊明(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団
チケット:全席指定
     一般:SS席9,000円 S席6,000円 A席4,500円 B席3,500円
     ピティナ会員:SS席7,500円 S席5,000円 A席4,000円 B席3,000円
     学生:SS席6,500円 S席4,500円 A席3,500円 B席2,500円
     学生ピティナ会員:SS席6,000円 S席4,000円 A席3,000円 B席2,000円
問 サントリーホールチケットセンター(ファイナルのみ) 0570-55-0017
 チケットぴあ
 イープラス

ピティナ・ピアノコンペティション特級
https://compe.piano.or.jp/news/2023/07/tokkyu2023_start.html