フランツ・ウェルザー゠メスト(指揮)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

2023年ニューイヤー・コンサートのコンビがこの秋、降臨!

(C)Julia Wesely

 この人が指揮台に立つと、ステージも客席も思わず微笑む。古き良き時代を知るオーストリアの名匠フランツ・ウェルザー゠メストと、実は進取の気性に富んだオーストリアの名門ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の「響宴」を心待ちにしているファンは数知れない。意外なことに、ウィーン、ザルツブルクのお客さまもそう。篤実な音楽観を掲げたウェルザー゠メストのことを、ずっと応援してきたファンが多いのだ。

 2年ぶりにやってくるウィーン・フィル。誉め言葉は尽くされているが、プロフェッショナルな信頼関係で結ばれた「オーストリア」「ウィーン」流儀のマエストロを迎えたとき、そのアンサンブルは私たちが漠然と思い描く以上に彫りが深く素晴らしい。選曲からして斬新だった今年のニューイヤー・コンサート(初登場の曲が14曲もあった)で、秘曲に寄り添い、曲に語らせつつコンサートに大いなる喜びをもたらしたウェルザー゠メストとウィーン・フィルの至芸に酔いしれた方も多いことだろう。

 不慮の事故でヴァイオリニストとしてのキャリアを断念した彼が指揮者として最初に脚光を浴びたのは1990年、30歳でロンドン・フィルハーモニックの首席指揮者に就任したときだが、それ以前から故郷のリンツ、そしてウィーンのユース・オーケストラでタクトを執っていた。

 いっぽう80年代半ばには、これはという若手を大胆に抜擢することで知られていたスウェーデンのノールショーピング交響楽団の首席指揮者に就任。同楽団とのリンツ凱旋公演でオルフの「カルミナ・ブラーナ」を披露したこともあった。ちなみにノールショーピングでのウェルザー゠メストの後任は広上淳一である。

 私事で恐縮だが、30数年前のウィーン留学中、若き日のウェルザー゠メストをよく聴いた。国立歌劇場でのロッシーニ《アルジェのイタリア女》それにモーツァルト《フィガロの結婚》で、アグネス・バルツァやライモンディの妙技に寄り添っていたことを思い出す。同劇場でキャリアを開始した同世代のファビオ・ルイージの良きライバルだった。

 オペラとシンフォニーの両輪(←ここが重要)でウェルザー゠メストの躍進が始まったのは、チューリヒ歌劇場および管弦楽団の要職を任された90年代半ばで、ほどなくウィーン・フィルも声をかける──。2023年は、伝統と格式を誇るウィーン・フィル定期公演デビュー25周年を寿ぐ年でもある。

 地元の声援も熱いウェルザー゠メストとウィーン・フィル。11月に、サントリーホール4公演および名古屋、大阪、横浜で王道を行くレパートリーを披露することになった。

 R.シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」に、あらためて関心を寄せたい。近年ザルツブルク音楽祭で《サロメ》と《エレクトラ》に腕を揮ってきた彼とウィーン・フィルで聴く気宇壮大な音絵巻だ。管弦打楽器、オルガンの妙技、コンサートマスターが弾く舞踏の歌に胸ときめく。最後のハ調とロ調の対峙までドラマは尽きない。

 プログラム前半からメインが響く趣。ウィーン並びに楽友協会の演奏史を彩るベートーヴェンの交響曲第4番、ブラームスの交響曲第1番に野暮な解説は不要。ウィーン・フィルの、あの芳醇な音色で、時空を超えた名曲に抱かれたいものである。ドヴォルジャークが「それまでに書いた交響曲とは違う手法で主題を展開させたい」と述べた交響曲第8番もウェルザー゠メストの十八番で、プラハでの初演に続くウィーン初演をハンス・リヒター指揮ウィーン・フィルが行ったという史実も私たちを喜ばせる。

 今どきのウィーン・フィルを味わいたい。ならば20世紀交響曲芸術の最高峰たるプロコフィエフの交響曲第5番は欠かせない。幻想的な楽想も機知に富んだ創りもお任せあれのサン゠サーンスも、実はウィーン・フィルゆかりの作曲家である。1879年春に指揮台に立ち、ベートーヴェンのピアノ協奏曲も弾いたのだから。疾走感も魅力となるサン゠サーンスのピアノ協奏曲第2番を、ラン・ランで楽しむとは贅沢な趣向だ。ウィーン・フィルは私たちの夢を育む。
文:奥田佳道
(ぶらあぼ2023年6月号より)

Profile】
フランツ・ウェルザー゠メストは客演指揮者として、特にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と緊密で充実した関係を築いており、ウィーン楽友協会での定期演奏会のほか、ヨーロッパ、日本、中国、アメリカでの公演でも度々指揮をしている。これまでにニューイヤー・コンサートの舞台に3度立っているが、2023年のコンサートは批評家や聴衆からコンサート史上最高のものの一つとして絶賛された。ウィーン楽友協会の名誉会員であり、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団からは名誉の指輪が贈られた。

【指揮者変更】
※指揮者フランツ・ウェルザー゠メスト氏は、癌治療のため10月下旬から年末までの演奏活動を全てキャンセルすることになりました。
「ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン 2023」は、指揮者を変更し全公演開催されます。
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。(9/11主催者発表)

https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/news_topics/detail/127736.html

Information

ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン 2023
大和ハウス Special
フランツ・ウェルザー゠メスト指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団


出演/フランツ・ウェルザー゠メスト(指揮)、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、
   ラン・ラン(ピアノ 11/11、11/14、11/15)
曲目/[11/10、11/18] ベートーヴェン:交響曲第4番 変ロ長調 op.60
            ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 op.68
   [11/11、11/15] サン゠サーンス:ピアノ協奏曲第2番 ト短調 op.22
            ドヴォルジャーク:交響曲第8番 ト長調 op.88(B163)
   [11/12] R.シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」op.30
        ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 op.68
   [11/14] サン゠サーンス:ピアノ協奏曲第2番 ト短調 op.22
        プロコフィエフ:交響曲第5番 変ロ長調 op.100
   [11/19] R.シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」op.30
        ドヴォルジャーク:交響曲第8番 ト長調 op.88(B163)

2023.11/10(金)18:45 愛知県芸術劇場 コンサートホール 
6/2(金)発売
問:中京テレビクリエイション052-588-4477 

https://cte.jp

2023.11/11(土)15:00 大阪/フェスティバルホール 
6/18(日)発売
問:フェスティバルホール06-6231-2221 

https://www.festivalhall.jp

2023.11/12(日)16:00、11/14(火)19:00、11/18(土)16:00、11/19(日)16:00
サントリーホール 
5/27(土)発売
問:サントリーホールチケットセンター0570-55-0017 

suntoryhall.pia.jp (先行発売分予定枚数終了)

2023.11/15(水)19:00 横浜みなとみらいホール 
5/27(土)発売
問 横浜みなとみらいホールチケットセンター045-682-2000 

https://yokohama-minatomiraihall.jp

※各公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。