諏訪内晶子(ヴァイオリン)

要注目! 新たな楽器で初めて弾くチャイコフスキー

(C)Kiyotaka Saito

 日本を代表する国際的ヴァイオリニスト・諏訪内晶子。彼女はこの6月、日本で、ラハフ・シャニ指揮ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団と、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を共演する。これは、世界を席巻する若きマエストロとの初共演、東京・大阪における久々のチャイコフスキー等々、注目度抜群の公演だ。

 シャニは、まだ34歳ながら、2018年9月に楽団史上最年少でロッテルダム・フィルの首席指揮者に就任し、21年からは巨匠メータの後を継いでイスラエル・フィルの音楽監督を務めている気鋭中の気鋭指揮者である。

「今回初共演ですが、演奏自体は何度か聴いていて、才能溢れる若い指揮者というイメージがあります。しかもチャイコフスキーの協奏曲は、指揮者の音楽性が本当によくわかる曲。名が知られる前のヤニック・ネゼ゠セガン、フランソワ゠グザヴィエ・ロトとこの曲を共演した時にも強い印象を受けましたので、本番が楽しみです」

 ロッテルダム・フィルとも初の共演となる。

「ゲルギエフ時代にフェスティバルを始めるなど、コンセルトヘボウ管とは違った形で目覚ましい演奏を重ねてきたオーケストラであり、柔軟なプログラミング、面白いコンセプトのもとで活動している印象があります。それにオランダのオーケストラとは何度も共演していますが、素晴らしい演奏をする楽団が多いので、こちらも本当に楽しみです」

 チャイコフスキーの協奏曲は、諏訪内がチャイコフスキー国際コンクールで史上最年少優勝を果たしてから30年の節目にあたる2020年3月、日本でノセダ指揮ワシントン・ナショナル響と共演する予定だったが、コロナ禍で公演中止を余儀なくされたという経緯があるだけに、まさしく待望の演目だ。しかも「東京で演奏するのは、2016年5月のテミルカーノフ指揮サンクトペテルブルグ・フィルとの共演以来7年ぶり」というから、意外に稀少な機会でもある。

 そして今回何より重要なのは、2020年10月、20年弾いてきたストラディヴァリウスの「ドルフィン」からグァルネリ・デル・ジェズ「チャールズ・リード」に楽器を変えた彼女が、「世界的にみても、この楽器で初めて弾くチャイコフスキーの協奏曲」であること。以前話を聞いた際に「全く性格が違います。楽器自体のサイズもストラドは大きく、今度のデル・ジェズは小さめ。ストラドは音自体が完成されていて、それを引き出すのが奏者の役割ですが、デル・ジェズは奏者が弾き込み、音を明確にイメージする必要があります。その分ヴィブラートや右手の奏法など奏者の技術が反映される人間的な楽器です」と語っていたが、バッハの無伴奏プロジェクトや、彼女が芸術監督を務める「国際音楽祭NIPPON」の室内楽等で高い評価を得ているだけに、期待度は高い。

「高音の出方も低音の重厚感も異なりますし、自分の奏法も変わりますので、表現の幅が全然違うものになります。今回楽器が変わったことによって、本来の自分の音楽性に近いものになった感じがします。弓の圧やヴィブラートのかけ方も変える必要があって、弓も替えましたし、ハイフェッツなどデル・ジェズを愛用していた奏者の演奏を聴くことによって得ることも多く、今さらながら貴重な体験をさせていただいています。これは楽器を変えずにいたら知ることのなかった新たな世界であり、何度も演奏したチャイコフスキーの協奏曲でさえも、初めて弾いているような感触があります」

 曲自体は広くお馴染みの名作だ。

「もちろん名曲です。でも演奏は毎回違ってきますね。学生や若い人も弾きますが、最初のフレーズなどとても難しく、技術的にも音的にもエネルギーやバイタリティが必要な曲です。音楽自体はロシア的というよりサンクトペテルブルグ的。この町ではフランス語が使われていたようにやはりヨーロッパ的で、モスクワの風土とは全く違う音楽だと思います」

 話を聞くと本番への興味は膨らむばかり。諏訪内も「後半がブラームスの交響曲第1番(大阪はチャイコフスキーの『悲愴』交響曲)。素晴らしいプログラムですね」と語る本公演に、ぜひとも足を運びたい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2023年6月号より)

Profile】
1990年、史上最年少でチャイコフスキー国際コンクール優勝。これまでにボストン響、フィラデルフィア管、パリ管、ベルリン・フィルなど国内外の主要オーケストラと多数共演。2012年、15年、エリザベート王妃国際コンクールヴァイオリン部門及び2019年チャイコフスキー国際コンクール審査員。2012年より「国際音楽祭NIPPON」を企画制作し、同音楽祭の芸術監督を務めている。使用楽器は、日本にルーツをもつ米国在住のDr. Ryuji Uenoより長期貸与された1732年製作のグァルネリ・デル・ジェズ「チャールズ・リード」。

【Information
ラハフ・シャニ指揮 ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団

2023.6/23(金)19:00 サントリーホール

出演/ラハフ・シャニ(指揮)、諏訪内晶子(ヴァイオリン)
   ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団
曲目/ボロディン:交響詩「中央アジアの草原にて」
   チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35
   ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 op.68

2023.6/26(月)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール
出演/ラハフ・シャニ(指揮)、藤田真央(ピアノ)、ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団
曲目/ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番 ニ短調 op.30
   チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調「悲愴」 op.74

問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 https://www.japanarts.co.jp 
※公演の詳細は左記ウェブサイトでご確認ください。


他公演 
2023.6/24(土) 所沢市民文化センターミューズ アークホール(04-2998-7777)

6/25(日) 大阪/ザ・シンフォニーホール(06-6453-2333)
6/27(火) ミューザ川崎シンフォニーホール(神奈川芸術協会045-453-5080)

★=諏訪内晶子 ◎=藤田真央