CDデビュー30周年を迎えた田部京子の新譜は、ピアノ音楽の繊細美を凝縮させたようなアルバムだ。アンコール・ピースとして親しまれる16の小品から成る。冒頭はウクライナの作曲家スコリクの「メロディー」。その歌心豊かな旋律と柔らかに移ろう和声が、アルバム全体の基調トーンとしてじんわりと心に広がる。前半は悲哀を帯びた小品が続くが、中間に置かれたグリンカ（バラキレフ編）「ひばり」で、孤独な単旋律から華麗なるピアニズムへと、大きな起伏を描く。後半は徐々に光差す作品となり、ラストのシューベルト（田部・吉松隆編）「アヴェ・マリア」の希望に満ちた音色が余韻を残す。
文：飯田有抄
（ぶらあぼ2023年6月号より）
【information】
CD『メロディー／田部京子』
スコリク：メロディー／ブラームス：間奏曲 op.118-2、子守歌（吉松隆編）／グルック（ズガンバーティ編）：メロディー（精霊の踊り）／シベリウス：もみの木／グリンカ（バラキレフ編）：ひばり／グリーグ：ノクターン／シューベルト（田部京子/吉松編）：アヴェ・マリア 他
田部京子（ピアノ）
日本コロムビア
COCQ-85604 ￥3300（税込）