2023年8月の海外公演情報

Wiener Staatsoper Photo by Dimitry Anikin on Unsplash

『ぶらあぼ』誌面でご好評いただいている海外公演情報を「ぶらあぼONLINE」でもご紹介します。海外にはなかなか出かけられない日々が続きますが、“妄想トラベル”を楽しみましょう!
[以下、ぶらあぼ2023年5月号海外公演情報ページ掲載の情報です]

曽雌裕一 編

【ご注意】
新型コロナウイルスやロシアを巡る深刻な世界情勢のため、「夏の音楽祭」を含む各劇場の開催内容・出演者に今後変更の生じる可能性は解消しておりません。最新情報は、各劇場等のウェブサイトで念のためご確認下さい。

↓それぞれの国の情報はこちらから↓

◎【8月の注目公演】(通常公演分)

 コロナの感染がやや落ち着いてきたという判断か、ここ数年見られたような通常公演が音楽祭期間の8月にまで及ぶ例外的なケースは今年はほとんど見られなくなった。その中で、コロナ前から8月にも通常公演を行っているケルンのフィルハーモニーでは、今年もケント・ナガノ指揮ドレスデン音楽祭管の「ラインの黄金」(このコンビの公演は、独OPERNGLAS誌4月号で特集が組まれている)や、ロト指揮ケルン・ギュルツェニヒ管のストラヴィンスキー&マーラー・プロなど注目公演が並ぶ。

●【夏の音楽祭】(8月分)

〔Ⅰ〕オーストリア

 「最近の『ザルツブルク音楽祭』には、1970〜80年代頃に比べて聴くべき指揮者も歌手も誰もいない」と嘆く超ベテラン音楽ファンの声を聞くことも珍しくはない。確かにカラヤンもベームもパヴァロッティもいない音楽祭ではあるが、それでも今年は今年で、見もの・聴きものの公演はある。例えばオペラでは、ピション指揮の「フィガロの結婚」、ウェルザー=メスト指揮のヴェルディ「マクベス」、メッツマッハー指揮の「ファルスタッフ」など。特にザルツブルク音楽祭に出演するときのウィーン・フィルは、ウィーンでのレパートリー公演時と違い、必ずリハーサルをこなしてから登場するので、非常に精度の高い演奏を聴かせてくれることが多い。その意味では、マキシム・パスカルの振るマルティヌーの珍しいオペラ「ギリシャの受難劇」をウィーン・フィルが演奏するというのも非常に期待値が高い。ガーディナー指揮のベルリオーズ「トロイアの人々」という注目公演もあるが、個人的には、この巨大な作品は演奏会形式ではなく、壮大な装置や美術で見たい気持ちはある。オーストリアの公演情報

 一方、オーケストラでは、ロト指揮のレ・シエクルとヴァイオリンのファウスト、ピアノのメルニコフとの共演、サヴァール指揮のベートーヴェン交響曲集、ムーティ指揮ウィーン・フィルのブルックナーなどに加え、おそらくは奇抜な衣裳で歌い演じるであろうコパチンスカヤの公演からも目が離せない。室内楽にも、ファウスト、ゲルハーヘル、エベーヌ弦楽四重奏団、ベルチャ四重奏団、キーシン、ゲルネ、カプソン、ソコロフ、グリゴリアン、内田光子等々、さすがにザルツならではという豪華な出演陣が並んでいる。

 古楽音楽祭の定番「インスブルック古楽音楽祭」は相変わらず内容充実。ヴィヴァルディの2つのオペラ「オリンピーアデ」と「忠実なニンファ」を柱として、アレッサンドリーニ、ルセ、ショーヴァン、コルティといった指揮者たちが、オルガンやチェンバロを弾き振りをしながら脇を固める。「シューベルティアーデ」は室内楽中心の音楽祭として魅力横溢。「ブレゲンツ音楽祭」では、オペラ「下田のユーディット」が注目公演。この作品は、山本有三の戯曲「女人哀詞-唐人ものがたり」に触発されて書いたブレヒトの未完成の戯曲「下田のユーディット」が基となる日本ゆかりの意欲作。「グラーフェネック音楽祭」では、この秋に来日を控えたシャニ指揮イスラエル・フィルや、ハーディング指揮のマーラー室内管などに注目。

〔Ⅱ〕ドイツ

 今年の「バイロイト音楽祭」では、やっとインキネン指揮シュヴァルツ演出の「リング」が当初のキャスティングで上演される。指揮と演出の評価が昨年と比べて良い方に大化けするかどうか、まずはお手並み拝見といったところか。今年の話題の第一は、先月号でも触れたとおり、ARゴーグルを通して見る拡張現実(ゴーグルを通した画像と実際の舞台との連携)が一体どのようなものになるのか。

 「シュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭」では、ベルリン・フィルの首席オーボエ奏者アルブレヒト・マイヤーがイギリス室内管と共演する演奏会や、ウクライナ出身のヴァイオリニスト、ディアナ・ティシュチェンコらと組んだ室内アンサンブルが面白そうだ。他にもピアノのポゴレリッチを独奏としたティチアーティ指揮バーゼル室内管、ベルチャ四重奏団なども見逃せない。

 また「ラインガウ音楽祭」では人気のマケラ指揮オスロ・フィル、「メクレンブルク=フォアポンメルン音楽祭」ではエーベルレのヴァイオリンとカメラータ・ザルツブルクの共演(指揮も)などの公演も注目だが、「ブレーメン音楽祭」でのローレル指揮ル・セルクル・ド・ラルモニーのヴェルディ「イル・トロヴァトーレ」、ヘレヴェッヘ指揮コレギウム・ヴォカーレのイタリア・マドリガーレなども楽しみだ。ドイツにありながら常に意欲的なロッシーニの作品上演で名高い「ロッシーニ・イン・ヴィルトバート」も健在。なお、ドイツ最南部のガルミッシュ=パルテンキルヘンで6月に開催される「リヒャルト・シュトラウス・ターゲ」は、マスタークラスを中心とした教育的性格を持つイベントのため、一般的な演奏会は少ない。ドイツの公演情報

〔Ⅲ〕スイス

 スイス随一の夏の定番イベントである「ルツェルン音楽祭」。今年もシャイー、シャニ、バレンボイム、ナガノ(通常公演でも紹介した「ラインの黄金」)、ハーディング、マケラ、ネルソンス、ペトレンコなどの有名人気指揮者が勢揃い。ペトレンコ=ベルリン・フィルは、SNSで見かけた「ザルツブルクやルツェルンでの演奏曲目が今シーズンのツアーの共通演目になるのではないか」との「音楽通」の読みが当たって、秋の来日公演の曲目とかなり重なっている。「グシュタード・メニューイン・フェスティバル」では、ヴァイオリンのコパチンスカヤが大活躍。リゲティの「グラン・マカーブル」こそ曲目にはないものの、ヴァイオリンを弾きながら歌って踊って語って演技して…という「想像を絶する」ような舞台が想定される。ゲルネとピリスによる「冬の旅」もある。スイスの公演情報

〔Ⅳ〕イタリア

 「ペーザロ・ロッシーニ・フェスティバル」の目玉でもあるロッシーニのオペラは、今年も「エドゥアルドとクリスティーナ」、「パルミラのアウレリアーノ」、「ボルゴーニャのアデライーデ」と他ではまず聴く機会のなさそうな佳品が選ばれている。「マルティナ・フランカ音楽祭」もガスマンの「鳥を捕まえる人」といった希少な作品を上演。先月号までに紹介できなかった「ラヴェンナ音楽祭」、「マチェラータ・オペラ・フェスティバル」、ローマ歌劇場の「カラカラ浴場」公演も遡及掲載した。イタリアの公演情報

〔Ⅴ〕フランス
〔Ⅵ〕ベネルクス

 古楽系随一の夏の音楽祭「ボーヌ・バロック音楽祭」の詳細が発表されたので、その内容を記述した。今年もマクリーシュ、アラルコン、フュジェ、ローレル、スピノジ、クリスティなどの有名古楽系指揮者が名を連ねる。同じ古楽系のベルギーの「フランドル古楽祭(AMUZ)」には、ネーヴェル指揮ウエルガス・アンサンブルなどが存在感を示す。さらに、フランスの「サブレ音楽祭」にはムニエ指揮のヴォクス・ルミニスやアラルコン指揮のカペラ・メディテラネアが登場。まさに古楽系音楽祭の林立するフランス、ベネルクス地域だ。なお、オランダの「ユトレヒト古楽祭」は次号で紹介の予定。また、アムステルダムで行われる「フリーンデン・ロテレイ・サマー・コンサート」には、「ルツェルン音楽祭」とともにウクライナ・フリーダム管が出演する。フランス・ベネルクスの公演情報

〔Ⅶ〕イギリス
〔Ⅷ〕北欧

 イギリスの「プロムス」と「エディンバラ国際フェスティバル」は次号で紹介予定。「グラインドボーン・オペラ・フェスティバル」では、ソプラノのオールダーが出演するストラヴィンスキー「道楽者のなりゆき」が面白い。その他「グラインドボーン」と趣を同じくする「カントリーハウス・オペラ・フェスティバル」の一つ「ロングボロー・フェスティバル・オペラ」では、5月・6月に遡ると、ワーグナー「神々の黄昏」のプレミエがある。ちなみにワーグナーはこの先2024年に「リング」のツィクルス公演が予定されている。スウェーデン「ドロットニングホルム・オペラ・フェスティバル」のメインはパーセルの「妖精の女王」(コルティ指揮)。イギリス・北欧の公演情報

〔Ⅸ〕東欧

 ルーマニアの「ジョルジェ・エネスク・フェスティバル」は「音楽祭」と「コンクール」の隔年開催だが今年は「音楽祭」。オーケストラ・コンサートに登場するのは、メータ=フィレンツェ五月音楽祭管やラトル=ロンドン響など大物指揮者たちの強力な布陣だ。東欧の公演情報

(以下次号)(曽雌裕一・そしひろかず)
(コメントできなかった注目公演も多いので本文の◎印をご参照下さい)


〔追記〕
以下の音楽祭は8月には開催されていますが、4月3日時点で内容が未発表または掲載が間に合わなかったため、次号以降でお知らせする予定です。

●ボン:ベートーヴェン音楽祭
●ルール地方の各都市:ルール・トリエンナーレ
●ラ・ロック・ダンテロン:国際ピアノ・フェスティバル
●ユトレヒト:古楽祭
●ロンドン:プロムス
●エディンバラ:国際フェスティバル