前田妃奈(ヴァイオリン)

コンクールを制した20歳の大器が世界ツアーを進行中

(c)T. Tairadate

 昨年10月にポーランド・ポズナンで開催されたヴィエニアフスキ国際ヴァイオリンコンクールで第1位に輝いた前田妃奈。日本人の優勝は1981年の漆原啓子以来という快挙だ。7月、東京と大阪で記念リサイタルを開く。

 コンクールの公式動画。演奏中のこぼれんばかりの笑顔が印象的だ。

「あの舞台に立ててうれしくないはずはありませんし、私はいつもコンクールとか関係なく、そこで楽しんで弾ければいいと思っています。ただ今回は今までになく緊張しました。そろそろ真剣に今後のキャリアを考えていかなければいけない年齢なので、無駄にしたくはない。せっかくならいい演奏をして、という気持ちがありました」

 とはいえ、じつはコンクールがあまり好きではないのだそう。出場を決めたのは締め切り直前だった。しかもきっかけはかなり偶然。

「寮の練習室から、たまたま誰かがヴィエニアフスキの協奏曲第2番を弾いているのが聴こえてきたんです。大好きな曲だけど、もう弾く機会はなさそうだなあ…。ん? ヴィエニアフスキ・コンクールの募集があったな!と思い出し、気がついたら部屋に戻って友だちに、『私、受けるわ! 1位になって帰ってくるわ!』と宣言していました(笑)」

 その友人たちの「妃奈なら大丈夫だと思う」というひと言が、他の誰の言葉よりも背中を押してくれた。そして最高の結果に。

 リサイタルの曲目は、モーツァルト:ソナタ第21番、R.シュトラウス:ソナタ、バッハ:シャコンヌ、マスネ:タイスの瞑想曲、ヴィエニアフスキ:ファウスト幻想曲。

「好きな曲ばかり。重めの曲と明るい曲の対照を考えました。でも感情の振幅が大きいプログラムを弾くのは大変。私は感情移入して弾くタイプなので、シャコンヌを弾くなら、もうシャコンヌだけでいいっていう感じなんです」

 コンクール覇者として、1年間に5大陸20カ国を巡る約60公演のツアーの真っ最中。

「教室に1時間半座っていなければならない学校の授業が苦手なので、練習と本番だけの毎日は気が楽です(笑)。お散歩して、その国の人たちに会えるのも面白くて」

 読書が大好き。ミステリー、ファンタジー、恋愛小説、なんでも読む。

「読み始めると止まらなくなるので、移動中だけと決めてます。中学の頃はその切り替えができず、本の続きが気になりすぎて練習にならなかったり(笑)」

 まだ20歳。演奏と同じ、自然で天真爛漫な話しぶりが好感。将来の大器を確信させる音楽家の出現はいつもうれしい。
取材・文:宮本 明

前田妃奈 ヴィエニアフスキ国際ヴァイオリンコンクール優勝記念リサイタル
2023.7/27 (木) 19:00 紀尾井ホール
問:AMATI 03-3560-3010
https://www.amati-tokyo.com


他公演
7/28(金)19:00 大阪/住友生命いずみホール(ABCチケットインフォメーション 06-6453-6000)