井上道義(指揮) 新日本フィルハーモニー交響楽団

出来たての音楽劇を自身のタクトで初演する

 作曲家と指揮者が完全に分業してしまった今では、出来たての新作を作曲家自身の指揮で聴くというチャンスはほとんどない。しかし、2023年1月の新日本フィルハーモニー交響楽団「第646回定期演奏会」でそれが実現する。2024年で指揮からの引退を宣言している井上道義が、長く構想を温め、作曲に時間を費やした新作ミュージカルオペラ《A Way from Surrender〜降福からの道〜》op.4を自らのタクトで初演するのである。井上自身を反映した主人公の画家・タロー、そしてタローの両親のフィリピンでの戦争体験を描き、人生とは何か、愛とは何か、希望はどこに向かうのかを問う、一種自伝的な作品である。

 画家タローに工藤和真、タローの父・正義に大西宇宙、その妻・みちこに小林沙羅など、実力ある若手歌手を起用したキャスティングも魅力的だが、やはりこの作品に込めた井上の想いが、彼の音楽の中にどう表現されているかが最も注目すべき点だ。タイトルに付けられた「ミュージカルオペラ」というちょっと不思議な造語について井上は、「ミュージカル公演で使われているマイクを歌手が使うから」だという。音楽に関しては、「これまで僕が影響を受けたすべての作曲家、マーラーやショスタコーヴィチなどの音楽的要素がすべて詰まっていると言ってよいでしょう」とも語る。ともかく、この公演を体験しなければ、その本意は分からない。1月はすみだトリフォニーホールとサントリーホールに駆けつけよう。
文:片桐卓也
(ぶらあぼ2023年1月号より)

第646回 定期演奏会
〈トリフォニーホール・シリーズ〉ミュージカルオペラ(オペラ形式) 

2023.1/21(土)14:00 すみだトリフォニーホール
〈サントリーホール・シリーズ〉演奏会形式 
2023.1/23(月)19:00 サントリーホール
問:新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815 
https://www.njp.or.jp