第7回 オペラ歌手 紅白対抗歌合戦 〜声魂真剣勝負〜

オペラ通も初心者も魂の歌声に心射貫かれる贅沢な一夜

 今年もこの季節がやってきた! 国内外で活躍中の日本のトップ歌手が勢揃いし、紅組白組に分かれて本気の勝負を繰り広げる「オペラ歌手 紅白対抗歌合戦 〜声魂真剣勝負〜」も、第7回を数える。すでに常連となったメンバーから初出場まで、バラエティに富んだ歌手たちがどんな曲を歌うのか、というのは後ほどご紹介するとして、今年はたいへん意義深いコーナーが予定されている。それが「ウクライナ支援特別企画」だ。ロシアとウクライナの戦争は終結の見通しがたたず、世界情勢が緊迫の度合いを増している中、オペラ界からも社会貢献をという思いから生まれたこの企画。ウクライナ出身で日本でも活躍するソプラノのオクサーナ・ステパニュックが、故郷への想いや世界平和への祈りを込めて、秋川雅史とのデュエットをお届けする。曲目は、ヴェルディの歌劇《椿姫》から〈パリを離れて〉。様々な主義主張はあれど、音楽はそれらを超えた力を持っているということを感じる演奏になるにちがいない。

 さて、本編の演奏勝負の方は、今年も「オペラといえばこれ!」という曲目が次から次へと登場する。特に、モーツァルトが3曲入っていることに注目したい。幕開きの紅組は《コジ・ファン・トゥッテ》からフィオルディリージとドラベッラ姉妹の二重唱を森谷真理と鳥木弥生が披露。メゾソプラノの林美智子が《皇帝ティートの慈悲》から〈私は行くが、君は平和に〉で得意のズボン役を存分に聴かせてくれるかと思えば、ベテラン妻屋秀和は《魔笛》から荘厳なザラストロのアリア〈おお、イシスとオシリスの神よ〉を歌うのも楽しみだ。

 圧倒的なメロディの美しさを誇るベルカント・オペラやフランス・オペラからのナンバーも充実。幸田浩子が歌うグノー《ロメオとジュリエット》の〈私は夢に生きたい〉や、小原啓楼のドニゼッティ《ランメルモールのルチア》から〈わが祖先の墓よ〉は、歌声の絶妙な技術と表現を堪能したい。もちろん、重厚なイタリア・オペラの名場面も用意されている。村上敏明と上江隼人というトップ歌手ふたりによるヴェルディ《ドン・カルロ》の〈友情の二重唱〉はオペラ・ファンならずとも心躍る選曲。近年そのレパートリーを広げているソプラノの砂川涼子は、ボーイトの《メフィストーフェレ》で一段の進境を示す。そしてラストは、大村博美がヴェルディ《トロヴァトーレ》から〈穏やかな夜〉、笛田博昭がジョルダーノ《アンドレア・シェニエ》から〈ある日、青空を眺めて〉と、ドラマティックなナンバーで最後の勝敗判定に向けて盛り上げる。

 当日配布のプログラムには、出演者からの近況などを語る「一言」が掲載され、読みながら観戦、いや鑑賞していると応援にも力が入ってしまう。普段オペラをあまり観ない人でも存分に楽しめるのが「オペラ紅白」の最大の魅力。まだ体験していない方は今年こそぜひ年末のサントリーホールに足を運んでほしい。
文:室田尚子
(ぶらあぼ2022年12月号より)

2022.12/5(月)18:30 サントリーホール
問:ヴォートル・チケットセンター03-5355-1280
http://operaconcert.net
※出演者やプログラムの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。