佐藤紀雄(アンサンブル・ノマド音楽監督)

結成25周年イヤーに委嘱・献呈作品を一挙演奏

(c)Higashi Akitoshi

 1997年、時代を席巻していた思想「ノマドロジー」に由来する名前を冠して結成されたアンサンブル・ノマドが、今年で25周年を迎える。ギタリストで音楽監督の佐藤紀雄が企画したテーマ性のある現代音楽の演奏会は、多くの聴衆から支持されてきた。

 「当時、日本音楽コンクールの作曲部門の指揮をしていた際に一緒に弾いてくれた仲間たちに声をかけ、ノマドが結成されました。25年はあっという間でしたが、メンバーの熱意と向上心ゆえに、ここまで続けられたのかなと思います」

 東京オペラシティのレジデントアンサンブルとしての活動を経て、現在は異彩を放つ精鋭集団として活躍中だ。

 「単なる作品紹介ではなく、なぜこのプログラムを組んだかという文脈やテーマ性を重視しています。活動が認知されてからは、主に海外の作曲家、出版社から『演奏してほしい』というコンタクトが増えましたが、本当に演奏したい作品を厳選しています。10人から15人の編成の作品は実は少ないので、2年ほど前から、ノマドをもっと活用してもらいたいという思いもあり、委嘱新作初演の企画も始めました」

 委嘱には、児童文学者の荒木田隆子基金を活用した。

 「荒木田さんは、私のお隣の家に住んでいた方で、晩年に初めてノマドの演奏会に来られてからずっと通ってくださいました。彼女がノマドのために提供してくださった遺財で基金をつくり、活動に役立てています」

 25周年記念演奏会は、3回予定されているが、ノマドでしか聴けないような独自の選曲だ。

 「欧州、アジア、アメリカといった幅広い地域から作曲家を選定しました。ノマドの演奏の特徴をよく知る作曲家によってアンサンブルのキャラクターを活かした作品が作られいて、全体の創作界を一望できると思います。みな、ノマドをよく知り、ノマドのために作曲してくれています」

 初回、6月24日の第75回定期は「都市と記憶」というテーマで、なかにしあかね、郭元、クレッグ・ペップルス、渡辺裕紀子らの個性豊かな作品が並ぶ。

 「〈都市と記憶〉というテーマ名は、渡辺さんの作品名からとりました。渡辺作品は工芸品を思わせる精緻な面を持っています。また来年2月5日に新作を初演するアレハンドロ・ビニャオはノマドの常連で、25周年にちなんだ『ノマドの時代』という作品を準備してくれました」

 来年度のテーマは「息」で、以後は少し長いスパンでのプロジェクトも思案中だという。

 「何度も来てくださっている方も、初めての方も、世界初演作品を聴く楽しみの多い演奏会になると思いますので、ぜひご期待ください」
取材・文:伊藤制子
(ぶらあぼ2022年6月号より)

アンサンブル・ノマド 第75回定期演奏会 “委嘱・献呈作品集” vol.1:都市と記憶
2022.6/24(金)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール
問:キーノート0422-44-1165 
https://www.ensemble-nomad.com