ミキシングまでが音楽作りというのは、ポピュラーその他では常識。その当たり前に、現代音楽界の第一線で活躍する作曲家がまじめに取り組んだら、こんなに魅力的な世界が出現したという好例が「TRANCE」と「ドレミのうた」。即興演奏や音の断片をコラージュしながら、現実の音響現象の彼方に生き生きとした、ユーモラスな仮想現実を作りだした。ピアノ協奏曲「花火」は、「TRANCE」の魅力が、単に素材を積み上げるのではなく自在な音の身振りを過たず捕まえ定着させる作曲家のたしかなメチエに根差していることを確認させてくれる。坂東祐大の現在地を鮮やかに浮かび上がらせた。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2022年3月号より)
【information】
CD『TRANCE/花火/坂東祐大』
坂東祐大:TRANCE、花火、ドレミのうた
U-zhaan(タブラ) 石若駿(ドラム) 多久潤一朗(フルート) 上野耕平(サクソフォン) 中川ヒデ鷹(バスーン) 尾池亜美(ヴァイオリン) 永野英樹(ピアノ) 杉山洋一(指揮) 新日本フィルハーモニー交響楽団 Ensemble FOVE 他
収録:2017年9月、サントリーホール(ライブ) 他
日本コロムビア
COCQ-85575〜6(2枚組) ¥3740(税込)