世界各地の豊かな音のダイバーシティに耳をすます
毎回挑戦的なプログラミングでファンを唸らせる佐藤紀雄&アンサンブル・ノマドだが、来る1月30日に開催される第74回定期演奏会もまたその例に漏れない。
ここでその作品が取り上げられる7名の作曲家—ジャック・ボディ、福士則夫、ヨルダン・マルコフ、佐原詩音、モニカ・ソカイテ、へベルト・バスケス、ミレナ・ドリノヴァ—のうち、平均的なリスナーがかろうじてその名を知っているのは日本の二人くらいではないか。これは本コンサートのタイトル「中心無き世界」とリンクしていよう。ここでの「中心」とは、独・伊・仏といった国々のアカデミックに体系化されたいわゆる「クラシック音楽」を指すだろう。これにある種の規範を求めつつもローカリティをその作品に持ち込み、抽象化された絶対音楽ではなくより民族的な土臭さを融合させたフュージョンとしてのクラシックをゆるやかに目指した作曲家たちであるが故に、その固有名詞は中心化せず拡散する。「今回の定期では世界各地で暮らす人々の日常の跫に耳をかたむけるプログラムをつくってみた」と佐藤は述べる。
今回、世界初演曲が3曲含まれるが、他の曲たちも大半の人は会場で初めて耳にすることと思う。リラックスしてそれらを虚心坦懐に楽しむのが吉だろうし、恐らくはそれが可能となる空気が醸成されるであろう。佐藤とアンサンブル・ノマドのコンサートでは自ずと複眼的思考が鍛えられ、そして感覚的な快楽も得る。
文:藤原聡
(ぶらあぼ2022年1月号より)
2022.1/30(日)14:00 東京オペラシティ リサイタルホール
問:キーノート0422-44-1165
https://www.ensemble-nomad.com