木のぬくもりに包まれた新ホールでゆかりの音楽家たちが躍動
開学以来初の、念願の音楽ホールが2021年春に完成した。桐朋学園大学仙川キャンパスの校門を入ってすぐ、楽器の弦をイメージしたという木製ルーバーに囲まれた建物が「桐朋学園宗次ホール」だ。ヴァイオリンの名器の貸与など音楽家支援で知られる実業家・宗次德二氏の名を冠したホール名は、建設に当たって氏から多額の寄付が寄せられたことを顕彰している。
11月からはいよいよ一般の聴衆も入場できる有料のオープニング・コンサート・シリーズ「伝統と革新〜音と共に 木と友に〜」が始まった。
「誰もがびっくりするほど素晴らしい音響です」
梅津時比古学長はいくぶん熱を帯びた口調で語る。音響設計は唐澤誠建築音響設計事務所。
「耳を刺激しない、まろやかな音が、まっすぐに豊かに広がっていきます。しかもそれがどの席で聴いても変わらない。出演者がみんな、最初からこんなに熟成した響きのホールはないと驚き、放送局やレコード会社は、一度聴いただけでここでの収録を即決していきました」
珍しい木造の音楽ホールは隈研吾氏の設計。新たな構造材として注目されているCLT(直交集成板 Cross Laminated Timber)を用いた世界初の音楽ホールだという。
「木のホールを作りたかった。楽器も多くが木製。私たちは木の響きを楽しんでいるわけです。木の柔らかさにやさしく包まれるホールになりました」
ホール内部はまだ木の香りがかぐわしい。最大234席の小ホールだが、大編成のオーケストラも演奏できるように舞台面はかなり広く、客席付きの豪華なリハーサル室のようでもある。そのぶん、舞台と客席に独特の一体感があって、聴衆は奏者の息づかいまでをも間近に感じられるにちがいない。
「そして、木と共生するという伝統的な世界に入っていったら、結果としてそれが『脱炭素』という最も先端的なテーマにもつながった。伝統的であることが革新的であり、革新的であることが伝統的である。これは音楽ともぴったり合う概念だなと思い、『伝統と革新』をオープニング・シリーズのコンセプトにしました」
22年3月まで続くオープニング・シリーズには、音楽界の最前線で活躍する演奏家たちが駆けつけた。もちろん桐朋学園の在校生・卒業生・教員たちだ。
「まずはここで学んで世界に羽ばたいている人たち、しかも若い人たちに弾いてもらおうということで、とくにこの10年間の日本音楽コンクールで1位になった演奏家たちをずらりと並べました」
ベテラン教授陣含め全員が「母校のために」と無償出演を申し出たという。おかげで私たちも、2,000円という安価な入場料で豪華アーティストの競演を楽しめるのはうれしいかぎり。
今後は他の音楽大学の学生たちが無料でコンサートを開けるように門戸を開放する利用法や、一般への貸ホールも検討中という。若い音楽家たちが、木とともに育っていく。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2022年1月号より)
桐朋学園宗次ホール オープニング・コンサート・シリーズ
問:桐朋学園 音楽部門事務局 教学グループ広報チーム03-3307-4140
https://toho-pr.wixsite.com/toho-munetsugu
※シリーズの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。