ショパンとフレンチの味わい深いデビューCD誕生
伊藤順一は、東京藝術大学を経てエコール・ノルマル音楽院、パリ国立高等音楽院伴奏科、そしてリヨン国立高等音楽院ピアノ科で学んだピアニスト。透明感のある、美しく多彩な音色が魅力的だ。シャトゥ、ステファノ・マリッツァ、ニースなどの国際コンクールにて第1位、さらに第4回日本ショパンコンクールにおいても第1位を受賞してきた伊藤が、満を持してデビュー盤となる『プロフォンド』をリリース。聴いた瞬間、心に訴えかけてくるメッセージ性の強い伊藤の演奏を反映したタイトルである。
「ずっと愛奏してきたショパン、そしてフォーレにラヴェル、ドビュッシーと、フランスを代表する作曲家の作品を選びました。基本的には“これを入れたい!”というものを弾かせていただきましたが、やはりデビュー盤ということで皆様に楽しんでいただけることも意識した選曲です」
プログラムの中で印象的なのはショパンのマズルカが4曲収められていることである。マズルカはショパンの作品の中でも特に難しいものの一つ。しかし伊藤の演奏は舞曲の自然なステップとともに、風景が見えてくるような“鮮やかさ”、心に語りかけてくるものがある。
「マズルカは少し弾き方を変えると同じ3拍子のワルツになってしまったり、ドラマティックなバラードになってしまうので、本当に難しいです。ただ、ショパンの他のジャンルにはないものがマズルカなんだ、と考え色々なことを試していくことで、自然と自分なりのものができてきました。また昨年見た『ショパン展』でポーランドの農村風景の絵画にたくさん触れる機会があり、そこからもインスピレーションを受けました。マズルカには都会的なワルツにはない“土臭さ”があるのです」
フランスで約8年とかなり長く学んだ伊藤。どのような影響を受けてきたのだろう。
「メロディとハーモニーの美しさを重視して自由に音楽を作っていく方が多いのですが、もっと自由に音楽を楽しめるようになりました。また、パリでは伴奏科に行きましたが、そこでオーケストラのスコアリーディングを学べたことは、様々な楽器の音色を想像して演奏することに大いに活かせていると思います」
11月29日には、すみだトリフォニーホール小ホールでショパンのスケルツォとバラードの全曲演奏という重量級のプログラムに取り組む伊藤。今後はさらに音色の深み、重さを出すためブラームスなどドイツものにも挑戦したいという。進化し続けるピアニズムに注目していきたい。
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ2021年12月号より)
第47回日本ショパン協会賞受賞記念コンサート
伊藤順一 ピアノリサイタル
2021.11/29(月)19:00 すみだトリフォニーホール(小)
問:湘南クラシックアーティストパラダイス 0467-24-5695
https://shonan-cap.com
SACDハイブリッド『プロフォンド』
アールアンフィニ
MECO-1068 ¥3300(税込)
2021.12/8(水)発売