北端祥人(ピアノ)

先人たちの精神を受け継ぐドイツ・プログラム

(c)Ayane Shindo

 2016年、仙台国際音楽コンクールで第3位を受賞し、一躍脚光を集めたピアニストの北端祥人。出場者のなかでもとりわけ安定感のある演奏で、殊に練り上げられた美しいサウンドは、専門家らをも唸らせた。

 ドイツから完全帰国して2年、この11月に東京オペラシティでリサイタルを開催する。すべてドイツの作曲家によるプログラムだ。
 「まずバッハを弾きたい! と。ニ長調の『トッカータ』BWV912は、出だしが明るくて、自然な気持ちのままコンサートに入っていけるのです。即興的で多彩な表情をもち、最後のフーガが、喜びを築き上げていくような様が好きです」

 シューマンの「トッカータ」については、「シューマンがバッハをよく研究していたこともうなずける」という。
 「ポリフォニーが素晴らしいのです。でも、意外と楽譜に書いている情報が多くなく、ピアニストのセンスに委ねられる部分も感じられます」

 クラリネット奏者としても有名なイェルク・ヴィトマンの作品からは、「11のフモレスケ」(2007)を取り上げる。
 「ベルリンは現代音楽の中心。ヴィトマンの作品も留学中に聴いたコンサートを通して知りました。彼の演奏したモーツァルトのクラリネット五重奏曲が見事で…。その時に、彼は自作の幻想曲も吹いたのですが、それもまた素晴らしかったのです。彼についての記事で『ドイツ・ロマン派の精神…シューマンやブラームスの精神をうまく現代において体現できる』と読んだのですが、まさにそうです。ヴィトマン自身も本作ではシューマンを『明確に意識している』と前書きに書いています」

 そして、ベルリン芸術大学の卒業試験で演奏したブラームスのピアノ・ソナタ第3番を、久しぶりに披露する。
 「このソナタは、シューマンの影響を受けつつそこから脱却しようとしている作品のように思え、芸術家としての野心がある曲だと思います。自分もこの曲を初めて弾いたときよりも少し年齢を重ねたので、もう一度挑んでみたかったのです」

 リサイタルのテーマは「温故知新」だ。
 「音楽の土台としてのバッハ。彼の対位法からシューマンは学び、ブラームスはシューマンに学び、ヴィトマンは100年以上後の人ですが、先人の精神をよく理解し共感している…時代は違いますが、点と点が一本の線でつながっているように感じます」

 リサイタルにかける思いを語った。
 「僕の演奏を聴いてほしいというよりも、作曲家の伝えたかったこと、作曲家同士のつながりや共通点を、みなさまの感性で感じていただければと思います」
取材・文:道下京子
(ぶらあぼ2021年11月号より)

北端祥人 ピアノ・リサイタル
2021.11/11(木)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール
問:ヤタベ・ミュージック・アソシエイツ03-3787-5106 
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