94歳のヘルベルト・ブロムシュテット、“純度”の高みへ

ヘルベルト・ブロムシュテット(c)Martin U.K. Lengemann

N響奏者ふたりが語る巨匠への思い

 毎年1月に音楽ファンにより投票が行われる「最も心に残ったN響コンサート」で必ずと言っていいほど上位に入る「ブロムシュテット&N響」。1981年の初共演以来、数々の公演を重ね信頼を築き上げてきた。昨年はコロナ禍で来日が叶わなかったが、この秋、ついに待望の演奏会が開催される。公演を前に、吉田秀さん(コントラバス首席)、池田昭子さん(オーボエ)からお話をうかがった。

取材・文:編集部
Photo: I.Sugimura/BRAVO

左:池田昭子さん 右:吉田秀さん

── いきなりですが、
   ズバリ、ブロムシュテットさんの魅力はどんなところですか?

吉田 特に奇を衒うようなことをすることもなく、特別な解釈をすることもなく、言ってみればオーソドックスの極みでしょうか。練習中も結構お話をされるのですが、本当にごく当たり前のことをおっしゃっていて。でも、それで私たちは“再確認”するんですよね。そして自然な流れで、誰が聴いても嫌な感じがしない音楽ができる。そういうところでしょうか。

池田 練習の前にマエストロの頭の中で音楽が仕上がっていて、それを時間いっぱいに使って私たちがいかに再現できるか、ということでしょうか。本当に音楽の隅々まで消化して、ご自身の血となり肉となっていらっしゃっていることを、押し付けがましい感じじゃなく私たちに注文されるのですが、それができると「すっごく嬉しい!!」みたいな顔をされて、私たちも「先生の思うようにできたんだ!よし、この調子だ!」という感じになるんです。なるべく先生の理想に近づけたいというか、笑顔が見たいっていうか(笑)

吉田 このお年になってますます神の世界に近づいていっているというか、純化されていらっしゃる。音楽がどんどん純粋になり余計なものを削ぎ落としていっている、という時なのではないでしょうか。そして我々もそれについていきたいと思うんです。純粋だから。

── マエストロはリハーサルでどのようなお話をされるのですか?

吉田 意外と哲学的なお話よりも、むしろ具体的な説明の方が多いような気がします。誰が聞いてもわかるような。

池田 そんなに特別なことをおっしゃるわけではないのですが。非常に当たり前のことというか。でもそれが完全に消化されていて、一切手抜きなく綿密に練り上げられているっていうのがわかるので。不思議ですねー。

吉田 不思議ですねー。

── マエストロは、リハーサルではどんな様子ですか?

吉田 お腹の底から出る声がすごいんです。ハツラツとしてますよね。

池田 来日して一番最初の練習の前って「どうかな・お年だし大丈夫かな」と心配したりもしているんですが、入ってくるなりの「Good Morning!!」がめちゃくちゃ元気で(笑)

吉田 そう!その「Good Morning!!」がめちゃくちゃでっかい「Good Morning!!」で(笑)

── それでスイッチが入る感じなんですね?

吉田 そうそうそう(笑)

池田 ものすごくお元気だし、これから鍛えられるんだな、、とちょっと不安になるのと(笑)嬉しいのと頑張らなきゃという気持ちで、毎年裏切られないです。

── 初めてマエストロの指揮で演奏したときはいかがでしたか?

吉田 1990年くらいでしょうか?表現が難しいのですが、当時からクセがなかったというか、それでいて芯があって印象には残る。基本的なスタンスはお変わりになってなく、延長線上でだんだんだんだん不純物がなくなっていって。違いと言えば当時は先振り(少し早めのタイミングで指揮すること)する人だってみんな言っていましたが、それがある時なくなったと思います。もしかするとわれわれ(N響)が変わったのかもしれないですね。

池田 私は、2004年だったのですが、当時といまでは少し違う感じがしますね。以前は、今より少し厳格な雰囲気もおありでした・。でも今は柔和で先生の素敵なところが、すぅーと上澄みみたいになって。

吉田 上澄み、いい例え。

池田 (写真を見て)90歳を超えてこの清潔感ってすごくないですか?本当に音楽もこのまま。いい意味で研ぎ澄まされて、そして愛が深まったというか。先生自身が音楽にときめき続けているんですよね。休憩時間でもずっとスコアを読んでいらっしゃるし。ずっと音楽に対して夢中になっていらして、それが私たちにもわかるし、一切手を抜かないし。もう楽しくて音楽をしているというのが伝わってくるから、私たちの演奏に喜びとして還元されて、それがお客さんの感動を呼び起こすのかなと思います。

── 今回のプログラムの聴きどころは?

吉田 マエストロはニルセンが好きですよね。

池田 先生、すごく楽しみにされていると思います。

吉田 ドヴォルザークは珍しいかもしれませんね。8番ってうっかりすると味付けが濃い演奏になる危険性のある曲ですが、それを先生がやったらどうなるかなという期待感がありますね。純度の高いドヴォルザーク。

池田 すごい爽やかになるんじゃないかな(笑)

吉田 あとは、やはりベートーヴェンの5番でしょうか。これだけ演奏されてきた曲を、先生がどのように作られるか、楽しみですね。

池田 運命でも、時間いっぱい使ってリハーサルしますよね?(笑)

吉田 それはそれは、1分も残さないですよ(笑)

●第1939回 定期公演 池袋Aプログラム
2021.10/16(土)18:00、10/17(日)14:00
東京芸術劇場 コンサートホール

指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット
ヴァイオリン:レオニダス・カヴァコス
ブラームス/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
ニルセン/交響曲 第5番 作品50

●第1940回 定期公演 池袋Cプログラム
2021.10/22(金)19:30、10/23(土)14:00(いずれも休憩なし)
東京芸術劇場 コンサートホール

指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット
開演前の室内楽
グリーグ/「ペール・ギュント」組曲 第1番 作品46
ドヴォルザーク/交響曲 第8番 ト長調 作品88

●第1941回 定期公演 Bプログラム
2021.10/27(水)、10/28(木)各日19:00

サントリーホール
指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット
ステンハンマル/セレナード ヘ長調 作品31
ベートーヴェン/交響曲 第5番 ハ短調 作品67

NHK交響楽団
https://www.nhkso.or.jp