「クラシック・キャラバン2021 クラシック音楽が世界をつなぐ～輝く未来に向けて～コンサート全国ツアー」を文化庁助成で

投稿日 2021年8月5日
著者 k-sasaki
カテゴリー NEWS

左より　朝岡聡、入山功一、仲道郁代、檀ふみ、ロバート・キャンベル、林淑朗　（C）堀田力丸

取材・文：池田卓夫

奏でる側と聴く側～人と人との心が生演奏を通じて１つになる場をつくりたい

　一般社団法人日本クラシック音楽事業協会（協会）は、マネジメントや演奏団体、ホールの垣根を越えた250人以上の演奏家が参加、3つのプログラムによる「クラシック・キャラバン2021」19公演を2021年9月3日から12月25日にかけ、全国で行うと発表した。文化庁がコロナ禍を受けて立ち上げた「大規模かつ質の高い文化芸術活動を核としたアートキャラバン事業」の一環。

　8月5日、東京・初台の東京オペラシティリサイタルホールで開かれた記者会見には同協会の入山功一会長（AMATI代表取締役）、アーティスト代表としてピアニストの仲道郁代、プロジェクト・アンバサダーの壇ふみ（俳優）、ロバート・キャンベル（早稲田大学特命教授）、メディカル・アンバサダーの林淑朗医師（亀田総合病院集中治療科部長）が登壇した。それぞれ思いのこもったコメントを紹介する。

入山功一
協会ではコロナ禍に見舞われて以降１年半、結束を強めて協議会を組織、国との折衝や飛沫感染リスクの科学的検証を行い、コンサートの感染症対策や開催ガイドラインをまとめてきた。今回もそうした取り組みの一環で、
1）もう一歩踏み込んでソロやフリーランスの演奏家に演奏機会を創出すること
2）事業者の仕事を創出する
3）日本を代表する演奏家による大変豪華なコンサートを通じ、今までクラシック音楽に疎遠だったお客様にも訴えかける
── の3点を目指している。普段は競合関係にある事業者と演奏団体、アーティストが集まり、一緒につくり上げる喜びもある。文化庁の補助金を得て協会が事業を主催するのは初めて。信頼し、企画を採択していただいたことに感謝する。

仲道郁代
コロナ禍が起きて半年かそれ以上の間、私自身だけでなく世の中全体の生活の中から、コンサートが消えた。音楽というのは「名詞」ではなく、聴いてくださるお客様と相互の関係の中で成立する「動詞」だった。公演が再開され、お客様と一緒に音楽を味わえた時は、全音楽家が「ああ生きている、これだよね！」と確認し、感動した。キャラバン企画の要（かなめ）も「つなぐ」にあり、非常にパーソナルな体験だ。“生（なま）”でお客様一人ひとりの心の中に入り、弾く者の心と音でつながる…そうした思いの集まる祝祭的な空間こそがコンサートであると、休演期間に確信した。多くの人々が生の音でつながる祝祭の存在を確かめていきたいと思う。

壇ふみ
自分では何も演奏できないにもかかわらず、クラシック音楽は人生の大事なパートナー。昨年はコロナ禍で多くのコンサートが中止になった上、同い年の友人を新型コロナウイルス感染症で亡くして自粛度合いが上がり、生の音から遠ざかっていた。秋口に誘われ復帰すると、涙がとめどなく溢れた。「生の音は何と、素晴らしいのか」。今は感染が再び拡大、以前のように「ブラヴォー！」で喜びを思いきり表現することもできないが、このように素敵な企画が生まれ、ふだん共演しない顔ぶれが一緒になり、新たなつながりが生まれることになった。

ロバート・キャンベル
コロナのパンデミック（世界拡大）は天災と違って目に見えず、時間をかけ、ゆっくりと進む。以前は普通だと思っていた接触の機会も、着実に奪われた。「どう過ごせばいいか」と考え、普段と違うことを実行したのが体を動かすことと、その時イヤホンで音楽を聴くことだった。音楽配信で過去1年、最も伸びたジャンルはキンダームジーク（子どもの音楽）とクラシック音楽だったという。学生時代、ボストン・オペラ・カンパニーで開演後は座って聴ける会場案内のアルバイトをしていた。ベートーヴェンの《フィデリオ》で人間が根本に持つ暴虐や残虐、そこから解放される瞬間の熱い感動を今も覚えている。音楽には衣食住と違い、目に見える即効性がない代わり、弱った体や心を慰め、気持ちを高め、次の行動への背中を押してくれる力がある。今回は19公演・総勢250人超の演奏家がひとつになって「恊働の時代」を体現する。ひとつの幹から次の時代の人材やアイデア、価値を生む蘖（ひこばえ＝切り株や根から生える若い芽）の効果に期待したい。

林淑朗
一番危惧するのはネット上の誤報、粗雑な情報。私の役割は音楽業界が間違った情報に振り回されて公演のできなくなる事態を避けるとともに、「何が何でも開催する」といった精神論にブレーキをかけることだ。100年に一度のパンデミックなのだから、科学的土台をきちんと押さえない限り、演奏会は開けない。音楽を愛する医師として科学的検証と音楽の橋渡しをしてきた。キャラバンには常設団体ではなく色々な演奏者、関係者が集まるので、今までの経験を土台に、日々刻々変化する事態を見据えながらリアルタイムの支援を行っていきたい。